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却説茲にレンパート氏手術と規定された手術法であるが,之に就いては一言して置かねばならない.一概にレンパート氏手術といつた場合大体二つの重要な手術法が問題となる.一つは本誌昨年12月錐体炎特集号に於いて仁保博士が詳説された錐体尖端炎に於いて氏の手術法が一つの重要な役割をしている.之に就いては仁保博士の論文を參照せられたい.今一つは近年アメリカで大いに問題とせられている耳硬化症の外科的療法である.然るに私は前者に関しては経驗を持たない.唯後者に関しては最近数例に之を経驗し,併せて其の経驗の一部を学生に講義する機会を持つた.從つて編輯部の求められる所も後の場合と解釈して以下此の事に就いて記述を許されたい.
耳硬化症の外科的療法に就いては從來本邦に於いてはあまり問題にされていなかつた.之は何故かというに本問題の着想は既に前世紀末葉より欧洲に於いて行われていたが,其の多くの試みは殆んど試驗の域を出ていなかつた.近年に至つて佛のモーリス,スルデイユ氏が漸く此の問題を臨床実施の域に迄発展せしめたけれども,而も其の手術は複雜であり,且つ其の効果も不確実の故に我々は之を追試しようとする勇氣を有しなかつた.然るに最近のアメリカ耳鼻咽喉科学雜誌を見るに此の問題に関する論文が非常に多い.それで其の根元を探つて行くと結局同國のレンパート氏が欧洲に於ける着想を引継いで更に強力な研究工夫を重ね注目す可き成績を挙げているという事に帰着する.斯くて同國に於いては氏の業績を以つて近代に於ける耳科学の一大進歩と称讃し一部の耳鼻咽喉科学教科書(ジヤクソン氏,バレンジヤー氏)には既に耳硬化症の療法として氏の手術が詳説されるに至つている,本邦に於いても西端教授は早くより氏の努力に称讃の言葉を送り,其の代表論文に就いては高橋博士が嘗て本誌上に之を訳出された.然し乍ら本邦に於いては未だ之を追試したという報告をあまり耳にしない.嘗て大藤教授の所で之を追試された報告が東京地方会で行われたが其の詳細に関しては未発表の樣に記憶する.依つて私はレンパート氏並びに其の他諸氏の論文を改めて読んで見たが結局此の問題は私共としても是非共研究しなければならない問題であるという結論になつた.それというのはレンパート氏が1945年Archives of otolaryngologyにそれ迄の成績を綜括して次の樣な事を述べている.即ち氏は過去数年に亘つて1000症例に手術しだが,此の中613例は社交的乃九至経済的接触に充分な聽力の回復を見,一層惡化せるものは45例に過ぎなかつた.又之等症例の効果持続の点に於いては術後3乃至7年を経過せる384例に在つては199例は引き続き実際的に有効な聽力回復を持続し,22例が惡化した.又6年以上以前に手術を行つた症例は75例であるが,此の中24例は実際的に有効な聽力を回復し6年以上に亘つて其の状態を持続している.(以上原著より抄録)即ち此の事実を考察して見るに少くも耳硬化症の約60%は再び実用聽力回復の機会を持ち,更に少く共其の半数は数年に亘つて其の状態を持続し得るという事である.而して此の事実は本手術を追試した諸家の報告を見るに必ずしも空文として無視す可からざるものの樣に考えられる.
Kashiwado treated 5 cases of otosclerosis by operative method which in principle followed that of Lempert's Vestibular Fenestration Operation with slight modification of his own. The first case was that of a patient whose loss of hearing resulting from the effects of radical mastoide-ctomy ; the second, third and fousth constituting that of clinical otosclerosis; while the fifth that of tone-deafness. The first case proved to be inoperable during the course of operation. In the second, third and fourth cases postoperative improvement of hearing are shown but for a short period of time thereafter only, except in one of which there was an appreciable increase in the amount of hearing with some permanency. Poor results thus obtained are believed to be ue in part to technical inexperience of the operator. No changes are seen in the fifth case n reference to the operation.
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