--------------------
口蓋破裂手術の經驗
森本 正紀
1
1新潟醫科大學耳鼻科教室
pp.240-245
発行日 1948年12月1日
Published Date 1948/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492200104
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
口蓋破裂の手術は發音状態を正常化するための外科的手段であつて,唯單に破裂間隙を解剖的に閉じることのみに終始すべきではない.縫つた丈であとは吾關せず焉,縫つて著きさえすれば可いとして片付けられるものではない.即ち發音(構音)矯正上の見地から,手術時機の撰擇,手術々式の吟味,治療方針の檢討ということが問題となる.先づ手術時機に就ては,患兒が未だ「言語模倣期」を終らない以前に破裂を縫合すると多くの場合は更に特定の外科的處置や構音練習をしなくとも,殆んど手放しで正常のコトバとなるが,遺憾乍ら現況では,就學間際にあわてて來訪したり,更に年長の患兒を取扱うことが少くない。甚だしきは「10歳過ぎて充分體力がついてから手術を受けた方が安全だ」と醫師に奬められたから今日迄放置してゐたという樣なのが稀れではない.即ち口蓋破裂の手術は適切な時機に早く受ける可きだと,俗間の認識を更新さすことは一般醫家にとつても一つの責務であろう.と同時に術者は只閉じさえすれば可いという考えを放擲して,如何にすれば開鼻聲がよくなり,如何にせば正常構音になるかを吟味し乍ら手術と治療を進めなければなちぬ.
私もか樣な主旨の下に,時に確實な筋肉縫合と口蓋咽頭距離(以下口・咽距離と略記)の狹隘化を念願し努力して居る1人であるが.凡ての點で滿足的だという域には未だ遙かに遠い.併し多少とも工夫して便利だと思う2〜3の點もあるので,現在私の採つてゐる方法と行き方を紹介する.基本術式の詳細は新潟醫學會誌62年1號(昭和23年1月)に掲載したので,それを御覽願うことにして,術式の重點と治療方針を記述する.
Copyright © 1948, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.