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概説
統計によれば各種結核による死亡率は本邦に於ては最近1, 2年稍減少したと言う.但し尚本病は死因の第一位を占め約15萬であるから現に本病に罹患中の者は百數十萬に達するであらう.我々の臨床的經驗では肺結核患者の30%餘に又剖見的經驗では其60%近く喉頭結核を認めるから年々8萬以上が本病の併發で倒れる譯である。殊に本病患者の末期の症状は甚だ悲慘であつて心ある者の正視に耐えない程である.近時我國でも本症に對する臨床的並に剖見報告は次第に其數を増し十數年前迄は殆んど不治と見做されて居た本症も往々治癒する場合がある程度迄進歩したととは患者にとつても甚だ幸福な事である.然し我教室に入院し經過を充分に觀察し得た成績では96例中で中途退院11例を除いても全治3例,輕快14例,未治21例,死亡47例であるから本症が如何に尚難治であるかが理解せられるであらう.尤も治癒率は治療法の如何及治癒制定の基準によると共に對照症例の輕重合併症の有無等によつて當然差異がある譯であるから,治効何%と言ふが如きは餘り問題とするに當らない.問題は寧ろ治療手段の内容にある譯だが從前の喉頭結核治療法は單に經驗的なものであり,餘り科學的根據のない者であつた.故に之を無差別的に應用しても或症例では有効であつても他の症例では却つて増惡の誘因となる場合もあつた.同樣の理由から本症の豫防法の如きは單に主唱者の想像を述べた程度に過ぎない状態であつた.それではいけないと思つて私達はかゝる顯徴期病變では治らないにしても更に初期の病變ならば効果が擧がるのでないかと思い初めた.之が教室端が潜伏性結核の研究を行つた所以である,即ち彼は肉眼的に殆んど喉頭正常な結核屍の喉頭を連續切片を作つて見ると小兒例30例中24例即80%に潜伏性結核病變を認めたのである.此時期は喉頭鏡像では如何なる所見があるか.我々は喉頭健全なる肺結核患者を選び之を定期的に喉頭檢査を行ひ其所見を記載して置いて就中其後に喉頭結核を發生した患者に就いて其記載を檢討し概ね潜伏結核期の所見を探究することゝした.其結果は喉頭結核は肺結核のシユープに續發し殊に6月以内に起り,多くは最初の1〜2月に發生する.其所見は喉頭の非特異的な汎發性又は限局性發赤であることを確かめた.乍併之等の研究によつても亦結核菌が如何にして喉頭に進入するか,如何なる機序により潜伏性結核引いては顯徴期結核が起るかは分らなかつた.結核が喉頭に起る爲には結核菌が侵襲することが必要な事は勿論である.之が如何にして侵襲するかに就いては原發性感染,續發性感染の兩説があり,殊に後者には營内性感染と血行(若くはリンパ管)性感染説とが從前盛んに論ぜられたが臨床的及病理解剖的研究では之が鮮明せられなかつた譯である.尤も原發性喉頭結核として時に報告せられるものはあるが,多くは臨床檢査により肺病變がないからと言うのであつて剖見的に全身の何所にも結核病變が皆無であることを立證したものは少い.事實我々の取扱ふ喉頭結核患者は既往及現症を精査するに100%肺結核を伴ふものであるから假令原發性喉頭があるとしても夫は極めて稀有な場合であることは萬人の認める所である.然し管内性及血行性感染説は甲論乙駁で未だに黒白が着かない.之は動物實驗によつて敍上の喉頭結核發生機序を究明する外は手段がないのである.又喉頭結核患者で血液所見,血沈其他色々の局所的及全身的調査の報告があるが喉頭結核が肺結核に續發する以上.純粹に喉頭結核によるものであるか乃至肺結核,即ち原病によるかは不明な場合が多い.例へば佐田が心臟レ線像及び心臟電働圖と喉頭結核との關係を調べた樣に肺結核のみの場合と明瞭に差のある場合もあるのであるが,血沈檢査成績の如く統計的には差があると言えない場合も甚だ多いのである.之は喉頭結核兼肺結核を肺結核と對照的に取扱つて統計するからである.若し喉頭結核のみを健康者と比較するならば相當明瞭な成績を得られる樣に思われるが,之が困難な事は既述の通り原發性喉頭結核が稀有な事である.之も亦動物實驗で喉頭のみの罹患を作つて檢査する外はない.次に喉頭結核の臨床的特徴の一つは本症が其病徴,經過,症状,轉歸等が多種多樣な事である.勿論之は喉頭結核に限らない.結核一般に關することで其爲に肺結核でも各種の分類法があり之又盛んに論戰が行われて居ることは衆知の通りである.何故に此の多樣性が起るのであらうか.之を統合整理する理論的根據はないのであらうか.之も亦實驗的研究によつてのみ解決せられる問題である.以上により本症に關する臨床的進歩が耳鼻科領域の他種疾患に比し遲れて居る所以は專ら本症に對する基礎的事項たる動物實驗の不足にあることが分るのである.
The author admits that there is a definite retar-dation in the advancement of the knowledge on the pathology and treatmeut of laryngeal tuber-culosis. Assuming the situation to inadequate am-ount of basic studies on the subject, he has brou-ght it to a considerable light by animal experi-mentations. The author considers the onset of disease as the loss of the balance which might be sustained by two opposing powers, the bacte-rial invasive and the tissue resistant, and, clas-sified the onset and progress of the disease into seven different categories. Interpretations on pathological changes in the tissues were on sta-tic basis, in the past, out, the author regards them in that of dynamic. His success in animal experimentations and acquirement of resulting precise classifications, which are based on varied subjects such as symptoms, pathological changes and the progress of disease, might be attributed to the ability, which from the stand point of general medicine, for grasping the subject on dynamic terms. The treatment of this disease seems to be placed upon rational basis with this new interpretation.
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