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乳樣突起手術の後療法に對する考究はSchwa—rzeの乳樣突起手術の創始と共に始まり,多くの方法が手術書に記載されて來たが,之等の方法に從つてうまくゆかない場合が出來てくるので,結局は經驗によつて夫々の場合に適した方法を會得するより外ない樣に思はれた.手術の難しさを或程度克服し得て,次に多くの臨床家の遭遇するものは後療法の難しさと思はれる.若し乳樣突起手術の完成が側頭骨外表部蜂窠群の完全な,或は完全に近い鑿除によつて達せられるものと看做されるならば,蜂窠の分布を理解してゐるものには必ずしも「レ」線の參照はなくとも,或る程度の習練の後には達し得らるゝものだと思はれる.原則的には骨内板から骨内板への露出を基準とすればよいからである.然し後療法にはこうした基準は認め得られないし.從來の手術書にも亦其の基準となる可きものが示されなかつた.レ線像の參照の下に側表部蜂窠群を充分に除去し得ても創の閉塞は遲々として進まず,遂に瘻孔を形成するに到る例を何度も經驗せねばならなかつたからである.乳樣蜂窠の術創は側頭骨外表部の蜂窠群を完全に除去することのみでは治癒するものではなく,夫々の場合に適正な後療法を必要とするからである.此の點骨髓炎の術創とは甚しく異るのである.後療法に對する努力は全身的なものと,局所的なものとに分たれる.全身的治療の必要なことは今更述べる迄もないから省略する.局所的治療としてはタンポン交換,創口の縫合等の局所的手技の外紫外線の照射,インシユリン糖液の塗布,Vigantolの局所的應用等による肉芽發生の促進,諸種殺菌劑の注入撒布等の方法が試みられたが,乳樣突起手術の後療法に於ては之等の方法は常に補助的な役割を演じてゐるとしか思へなかつた.後療法の成功を外耳への排膿の停止,創内肉芽の順調なる發育による術創の速かなる閉鎖,及び醜くない瘢痕の形成とにあると看做すならは,之を支配する決定的の因子は又別個に存在する樣に思はれる.私はそれを側頭骨の局所的要約或は局所的體質によるものと看做し度い.乳樣突起手術の後療法が順調に經過したり或はうまくゆかなかつたりするのは,「手術」と言ふ因子を除けば此の局所的體質に起因するものが最も大であると思はれる.乳樣突起手術後療法の成功は此の局所的體質を理解して,其の各個に相應した方法を採る所に在ると信ずる.體質とは形質と素因とから成る.形態の上と生物的反應の上とから個人的差が生じて來るわけであるが,中耳程此の兩因子に於ける個人差の甚しいものはあるまい.即ち中耳に於ては局所的な體質がはつきりしてゐると云ふことが言える.我々は之を側頭骨のPneumatisationとして理解してゐる.Wittmaackの研究によればPn. の良好なものの粘膜はmesoplastischとすれば,Pn. のHemmungのあるものはその粘膜は高い表皮と厚い皮下組織よりなるもの(hyperplastisch),又は低い表皮と薄いfibrösな皮下組織(hypoplastisch)とによりなつてゐるとされた.之等の由來を彼はAschoff以來注意されたFoetus,或はSäuglingに認められるatente Otitisを經過することによるとしたが,私は蜂窠再生時の新生粘膜下に潜在性炎症所見を認めたことから胎兒,又は初生兒の中耳腔に認めらるゝlatente Entzündungは蜂窠の形成に却つて有意義なる所見だとの反對の見解を持つてゐる(近く「耳鼻咽喉科」に發表),Pn-hemmungのあるものが厚い粘膜で被れてゐることに就ては私自身は經験がないからWitmaackの所見によるとするが,之等が炎症の刺戟に對して慢性的に經過する傾向を持つてゐることは臨床的に認められることであるし,術後の肉芽の發生状態から見ればPn. の惡いものはPn. の良好なものに比して其の發育が旺盛であることも亦認めることが出來る.この樣にPn. の個人的差異は亦外來刺戟に對する反應の上にも著しい差異を呈することを知るのである.然るに從來の後療法は此の問題を斯うした形では取り上げなかつた.
The author notes delay in the growth of granulation tissues fom formations of air cells, in the deeper parts of the wound, after mastoidectomy, when pneumatization of the bone is found well developed, and, visa versa, when such formation were lacking, graunlation grawths were exuberant. He ascribes the difference of these results to differences in focal tissue susceptibillty. Based upon these assumptions the following method of after treatment was adapted. If the air cells be found well developed, during the operation, the incision wound would be troated openly excepting that, a rubber drain is inserted at its center and a few stitches are placed at its either extremities. If, then, the wound be found favorably healing, it is closed by suturing at the later stage. A roentgen picture would be taken, during the aftertreatment, and, if evidence of overlooked pneumatic cells is presented, a radical mastoidectomy with conservation of hearing would be performed. When pnenmatization is poor, the wonnd is closcd by primary sutures, instead of an open treatment, Especially among infants and children, the open method is avoided. However, when aural discharges fail to disappear after such an operation, a radical mastoidectomy with conservation of hearing would be resorted to.
Thus, by observing the foregoing rules, the author concludes, formation of post auricular cavities and fistulas following mastoidectomy may be prevented.
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