海外見聞記・15
Frankfurt am Main(4)
亀井 義明
1,2
1川崎市立病院皮膚科
2慶大医学部皮膚科
pp.993
発行日 1964年10月1日
Published Date 1964/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1491203900
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Frankfurtでは乳母車を市電に持込む事が出来,入口も広い。勿論それだけの電車賃を払うのであるが,乳児を病院に連れて行く時等は,乳母車で家を出てそのまま市電に乗り病院前で降りて外来の中まで入る事が出来る。乳母車を持つている若い母親は電車に乗るとき,側にいる見知らぬ人に「手伝つて下さい」と当然の事のように頼むし,又人々も頼まれるまでもなく気軽に手伝つているが,私は一度電車の中で面白い場面を見た。持込まれた乳母車には子供の遊び用に自動車のハンドルの玩具がとりつけてあつた。若い母親がすました顔で"Eine Erwachsene und ein Kinderwagen"と言つて切符を買おうとした。車掌もすました顔で"Auto ist nicht gestattet!"と言つたので若いお母さんは一瞬当惑した顔付になつた。皆ゲラゲラ笑つているのですぐこのお母さんも笑い出したが,車掌にも他の乗客にも厭味な所は全然なく和気靄々としていて,東京の状態と比較し羨ましい気さえした。
このように乳児ほ乳母車の中で悠然と,幼児はの親膝上に行儀よくおさまつている。小供は実に厳格に躾けられるが,いぢけた所もなく天真燗漫,しかも礼義正しい。子供の育てかたはあちらの方が数等上手なような気がする。その事は外来や病室でもあてはまる。診察のとき泣いたりわめいたりする子供は一人も見なかつたし,入院するように言われた時などは涙をこらえ,歯をくいしばっている。
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