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11月はよく雨が降る。12月に入るとそれが雪になつて快晴の日は稀である。気温が低く乾燥している為かサラサラした雪が降る。街路樹にも美しい霧氷が見られる。積雪量は南部に比しずつと少ない様である。降雪のあつた朝は何処でも見られる様に大学の構内でもSchneemannが此処彼処に作られている。等身大以上のものや,写真で見る様な小さいもの等に山高帽をかぶせたり,マフラを巻きつけたりしてある。或る冬の日の昼休みに雪の積つた構内を散歩していて面白い場面を見た。Küchenmädchenと覚しき二人の女性が背中合せに立ち「チェッ!」「チェッ!]と言つて互に十歩程歩いて遠ざかり,振り向きざま猛烈な勢いで雪合戦を始めた。こんな所にも伝統の"Duell"の風習が残つているのかと興味深く拝見した次第であつた。「チェッ!」というのはAdieu(Adios,Ade)から来ていて,それがつまつてTschüβ,Tscheとなるらしい。親しい間柄では別れる時たいていこの様に言つている。
夫々の家の前は皆朝早くからたん念に雪かきをする。道路の其処彼処に集められた雪は市の清掃部のトラックが来て運び去る。結氷して滑り易い所にはおが屑や砂を撒いて滑らぬ様に非常に行き届いた配慮が見られる。市電の停留所等あわてて走つて来て転ぶ懸念のある所には特に注意深く撒かれている。そして雪がとけると撒かれた砂を丁寧に掃き集めて一定の場所に保管しておく。町の中の広場にはその様な砂置場があつて,平常は気付かなかつたが急を要する場合にはそこから運び出していた。即ちマンホールの様な蓋を開けると地下におが屑,砂それに小砂利が区別して入れてあり何時でも利用出来る様になつている。彼等は道路の事についても道路の保安という事についても実によく考え,良いと決つた事は可及的に実行に移しているという点でいろいろ感心させられる事が多い。上記の様な事,道路の整備の良い事,標識のわかり易い事等は皆その現れと言えよう。FrankfurtとHeidelergの中間にあるOdenwaldには比較的急な坂がある。山の中までよく舗装されているが濡れるとスリップして危険な所も多い。この山道でも相当長距離に亙つて砂が撒かれ,雨上りの峠を大した苦労もなく通過する事も出来た。大学病院の構内では一般の車の出入りは禁止され,職員で"U"のマークをつけた車だけが入る事が出来る。とは言つても古い人々やおえら方はやはり顔パスである。病院での食事や洗濯物等の運搬車はすべて電気自動車を使つている。その方が経済的なのかも知れないが,騒音と排気ガスを出来るだけ少くしようという意図の現れと思われる。
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