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本邦では花見といえば四月上旬である。彼地では染井吉野はついぞ見かけなかつた。桜といえば所謂八重桜で,四月下旬から五月下旬頃にかけて長く咲き続けている。かなり趣が異るが,桜は日本の花という通念から彼地で桜を眺めては故国の春を懐かしんだものである。写真は18巻1号で紹介したHautklinik.A-Bauの裏側で左手に満開の桜が見える。三人のSchwesternは未だ冬オーバーを着用している。看護婦の事はSchwesterといい,Pflegerinという言葉はついぞ一度も耳にした事がなかつた。因みに婦長はOberschwesterである。これは愛称ではなく職名となつている。看護婦を呼ぶ時は姓でではなく名前で,例えばSchwester Elisabeth,Schwester Maria等と呼ぶ。彼女等に名を聞いても姓は言わず,「私はMariaです」と答える。男の看護人はPflegerと言うが,呼ぶ時はHerr何々と言う事になつている。掃除婦に対してはRose,Anna等と名前を呼捨てにする。彼我の習慣の相違であろう。
看護婦は我国と同じく三交代制,外勤者も居り,自家用車族も多い。自転車や電車で通勤する看護婦も家からユニフォームを着て,看護婦の帽子をつけたままでやつて来る。非番の看護婦が私服でPrivatstationに来て,個室に入りびたつて患者と親しくしている等,我国では一寸考えられぬ事がある。Privatstationでは面会時間も自由,夜勤婦長が廻つて来ても上記の様な事は見て見ぬふりをしているし,当の看護婦の方も平気である。これに反して健保の病室は厳格そのもの,すべての私的な行動は制約を受け,職員の知人でも面会時間以外はたたき出される。このようにPrivatと保険患者との扱いの差が非常に甚だしい(ドイツではすべてそうだとは言えぬかも知れぬ)。
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