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壊疽性種痘疹(Vaccinia gangrenosa)は1879年Hutchinsonによって始めて記載されたが,これが低ガンマグロブリン血症と関係づけられたのは,1953年Keidanらによつてであつた。原発性の低ガンマグロブリン血症(hypogammaglobulinaemia)には3型ある。1)伴性劣性遺伝による物質代謝障害を生じ,リンパ組織の発育悪く,重症な細菌感染を繰返し,あるいは慢性肺疾患を起す。2)伴性ではなく,リンパ器管の肥大と時に溶血性貧血を合併する。3)リンパ組織未熟による小児の一過性低ガンマグロブリン血症。一般に低ガンマグロブリン血症の患者はウイルス感染に対しては抵抗大で,種痘は正常の反応を示す。しかし痘苗ウイルスに対する防衛機序は細胞性であり,体液性抗体を欠くので,時に壊疽性種痘疹を起すことがある。著者の症例は7ヵ月の小児で右足蹠に種痘を受けたが,10日目から右足の腫脹が起り,4週後には下痢が発生,全身症状悪化した。初診時,患児は脱水状態にあつて半ば無意識。口腔粘膜にはカンジダによる厚い苔を見る。右足蹟の2/3は壊疽性潰瘍に陥り,その他躯幹,四肢に10個の潰瘍を示す。種痘疹から痘苗ウイルスを証した。γ-グロブリン0.19g/100ml(正常0.6〜1.5g/100ml)。治療として種痘後のガンマグロブリンの筋注,thiosemicarbazone誘導体の内服,胎児組織の静注を行なつたが,種痘疹継発し,全身症状悪化して死亡した。種痘に当つては壊疽性種痘疹を生じる危険のある小児は除外すべきである。それには低ガンマグロブリン血症の症状が疑わしい小児には,血漿蛋白の電気泳動法的分離を行なつてガンマグロブリン値を確める。疑わしい症状とは,皮膚,呼吸器,泌尿器の著しい化膿性感染,気管支拡張症,リウマチ様関節炎,膠原病,血液学的に顆粒細胞減少症,溶血性貧血である。(Catherine M, White: Vaccinia Gangrenosa Due to hypogammaglobulinaemia, Lancet, i, 969, 1963)
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