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思いつくまま(23)
高瀬 吉雄
pp.107
発行日 1963年1月1日
Published Date 1963/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1491203434
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まだ当地に着任して日が浅いので現在の私の心境が果して正鵠を得たものであるか否かは疑はしいが,請われるままに松本へ赴任してから考えていることを述べてみたい。大学の環境はなるべく良い地点になければならない……当然すぎる問題であろうが,久しく都塵と騒音の真唯中に暮していたのに,ゆつたりした敷地と澄み切つた空気,時折り聞える犬の吠える声以外は静まりかえつた環境に移つてくると,しみじみと大学の研究室とは,こうした環境でなげればいけないと感ずる。大都市の大学は,例えば東京大学など稀れな例外に属するが,敷地の関係で直接によごれた空気と騒音に悩まされている。私の前任校の東京医大の六階の室は,あまり騒音が大きいので窓を開くと会話ができない程であつた。私自身を含めて,大学の往復の歓楽の街に対しては,若い研究者は概ね耐性が少く,ついつい何や彼やと口実を作つては貴重な時間と乏しい月給を献上して了う。洋書一冊の購入費が高いとこぼしながら,安くないビールやウィスキーの杯を傾むけている。どう考えても,少々不便でも都塵を離れ,落着いた場所こそ大学の位置すべき所であろう。
学会のもう一つの性格を考えたい我が国の学会は,その水準に於て確かに一流であろう。しかし臨床医学の学会が最近余りにも高踏的な面が強く出すぎていないか?結局は臨床から発足して臨床に寄与することが臨床医学会の目的であろう。
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