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思いつくまま(16)
中村 家政
Iemasa NAKAMURA
pp.1047
発行日 1961年12月1日
Published Date 1961/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1491203193
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- 文献概要
皮膚病の治療は何も苦心して診断を下す必要なく少し要領を呑み込めば,或は全く診断がつかない場合でも結構治療出来る,云々。ある雑誌で確かこんな意味のことを読んだ記憶がある。勿論多少誇張があり,そのまま受取れないが確かに一理はあることと思う。周知の通り現在普通の成書に記載されている疾患だけでも恐らく200を降らないと思うが,この内病因のはつきりしているのは果して幾つあるだろうか。この様に皮膚病が原因的に甚だ独立性に乏しいのは,同じ原因が之を受入れる生体側の条件次第で全く異つた反応形式をとり,之が独立疾患として取扱われる傾向が甚だ強いからである。勢い治療も独自性を失い,大半はホルモン剤,ビタミン剤,抗ヒスタミン剤,自律神経安定剤,抗アレルギー剤,抗炎症剤等の何れかに該当し,結局之等の治療術式を一応理解しておけば仮令診断がつかなくても治療にそれ程差し支えないということにもなり兼ねない。尤もこれは患者側からみた場合のことで,担当する医師自身は,皮膚病が多くの場合仲々癒らないだけに,病名も判らず治療することは全くやり切れないらしい。
処で私が危惧するのはこんな風では我々皮膚科医自身,何時とはなしに治療に対する自信と興味を失いはしまいかという心配である。
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