特集 皮膚泌尿器科領域の腫瘍
皮膚科領域における癌前駆症について
山本 俊平
1
,
太藤 重美
2
1京都大学医学部皮膚科
2京都大学医学部皮膚科教室
pp.933-936
発行日 1956年12月1日
Published Date 1956/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1491201827
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I.緒言
Dubreuilhが1896年に皮膚癌前駆症(以下Pr.)の概念として「癌に先行し,その領域に一定の規律をもつて癌が発生する所の皮膚病変」と述べた。その後,癌に先駆する特異的病的状態を仮定し,之をPr.と呼ぶ入々(Unna,Bowen)もあつたが,今日の所では,一般にこの概念に該当する皮膚病変の総合的名称とされている。Ener-El-lerは「他の皮膚疾患や,一見健康な皮膚におけるより,より頻繁に癌が現われる諸種皮膚病変」とPr.を簡明に説明している。
Pr.の共通的性状として,角質増殖,角化現象,アカントーゼ,皮膚萎縮や,結締織,弾力繊維の変化等があげられているが,Pr.特有ともいうべき性状は確立されていない。組織学的に多少共非定型的な上皮の増殖を呈する疾患──尖圭コンヂローム,臭素疹,増殖性天疱瘡,連続性肢端皮膚炎,尿道カルンクラ等──があるか,之等は臨床的の経験から通常Pr.とは見做されない場合が多い。極端な言い方をすれば,殆んど凡ての皮膚癌は中年以後,特に老人に生ずるのであるから,その母地は多少共老人性変化がある筈であり,中年以後の皮膚は凡てPr.に入ることになる。夫で一定の規律といい,より頻繁といつても,Pr.と然らざる疾患との境界をどの辺におくかは学者により異る為,Pr.に含まれる疾患が人により異るのは当然である。
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