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悪性黒子(Lentigo maligna, Becker 1954)はDu-breuilh(1912)1)により黒色癌前駆症(Melanose cir-conscrite Precancercusc,以下本症と略記)として詳細に記載されて以来,これに関する多くの研究がある.本症には上記の他次の同義語がある:Senilefreckles Hutchinson,1892.Infective melanoticfreckles Hutchinson,1894.Melanosis circumsc-ripta precancerosa Dubreuilh,Melanose de Dub-euilh,Melanotic freckles,Praecancerose Melanoseose,melanotische Praecancerose.最近未だ悪性化に到らなかつた本症の2例を経験したのでこれを報告し,綜説的に考按を加えたい.
悪性黒色腫の1つの成り立ち方として,本症の悪性化によるもののあることは既にDubeuilhの記載にある.彼は本症を3つの時期にわけているが,そのⅢ期は異型細胞(cellules metaplastiques)が真皮内に侵入(tomber dans le derme)した状態であって,既に(その病巣の一部が)悪性黒色腫に変つた状態(stade de degenerescence, Duperrat)であるとしている.因みに彼はこれを悪性黒色腫とはよばないでcancerとよび,滴落説におけるUnnaと全く同様に,表皮細胞の異型化→真皮内侵入を考えていた.彼のⅢ期はClark以来広く用いられる術語:lentigo maligna melanomaに該当する.Ⅲ期に先立つて,異型細胞が表皮真皮境界に沿つて拡がるが,真皮内には侵入しない時期(Ⅱ期)(stade de lentigo, Duperrat)がある.これはmelanoma in situという表現に該当するものとしてよかろう.本症はDubreuilhによれば,はじめ単純な色素沈着(pigmentation simple,Dub-reuilh;stade d'ephelide, Duperrat2))(DubreuilhのⅠ期)としてはじまり,後に本症に特徴的な異型細胞の離開(Segreg ation,Miescher3))がみられるようになる.単純な色素沈着は,『光顕的には普通の色素沈着と区別出来ない』といわれているが,電顕的知見4)を背景として注意深くみてゆけば,光顕的にもその特徴を或程度知ることが出来るのではあるまいか?悪性黒色腫の種々の対策5)のうち,本症の知見を詳かにし,未だlentigo malignamelanomaとならない時期に処置することも重要と考えられる.
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