特集 皮膚泌尿器科領域の腫瘍
惡性腫瘍の化学療法
桜井 欽夫
1
1薬理研究会研究所
pp.855-862
発行日 1956年12月1日
Published Date 1956/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1491201819
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1944〜5年頃を境として,それ以前の時代に,悪性腫瘍の化学療法が殆んど真面目な学問的研究の対象として取上げられなかつた様子が古い批判的な文献の中によく読みとる事が出来る。怪しげな実験医学的な根拠の無い物質が癌を治療する事の出来る高貴な薬品として度々世を惑わして来た事も事実であつた。
I.I.Kaplan1)はその問題について嘗て次の様に述ぺている。彼によると現在は癌の原因或いはその本態とも云うべきものが依然として神秘である為に,"Cancer Cure"と云う事が現実には甚しく不確定な事象の上に論ぜられなければならない。1817年にAshbyと云う男が癌に有効な軟膏を発見してMiddlessex Hospitalに持込んで来た。彼の言うところでは,癌は本来ある虫の寄生に原因するもので,彼の軟膏はこの虫を追出して了うと云うのであつたが,実験を求められた時に彼はひそかに一匹の虫を自分の袖口から患者の体の上に滑込ませ様として見破られた。その時代以後今日まで一つとして「Cancer Cure」と称し得べき薬物は存在しなかつたと彼は述べて居るが,これが1932年の事であつた。彼の当時の結論は手術,X線及びラヂラムの他に如何なる癌の治療法も存在しないと云う事であつた。
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