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広島における原子爆弾被爆者の皮膚疾患
藤井 浩
1
1社会保険広島市民病院膚科泌尿器科部
pp.465-471
発行日 1956年7月1日
Published Date 1956/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1491201725
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A.緒言
人類史上最初の原子爆弾が広島に投下されてから如何に原子爆発が人類にとつて悲慘な結果をもたらすかは,今尚世人の脳裏に新なものであるが,その言語に絶する被害状況については被爆直後よりわが国科学陣を動員して広汎な調査が行われ貴重な綜合報告が日本学術会議より公表されている。このうち医学的方面で皮膚科に関係のある脱毛,火傷,ケロイド,汗腺分泌,皮膚毛細血管抵抗,毛細管機能の障害等についても興味ある報告が見られる。被爆以来,年月を経過するに従つて当時の生々しい被害の状況は次第に減少して来ているかに思われるが,10年の歳月を経過した今日も尚,色々の被爆による障害に苦しみ,或は不幸な転機をとる尊い犠牲者も数多く見受けられ,引き続き各方面で人体における長年月を経過した場合の影響について調査研究がすゝめられている。先に広島大学医学部皮膚科教室においても被爆後8年を経過した被爆者で広島を離れて一定地域に在住していた者を集団的に皮膚科的に調査観察した結果について報告し,出血性素質を有するもの,皮膚抵抗の減弱したものが多く,長年に亘つて皮膚症状にも色々の障害があることを指摘している。昭和29年7月広島市民病院皮膚科が開設されて以来,余もこれら先学の貴重な調査報告に非常な関心をもち1年間,外来患者について被爆者を臨床的に観察して来たが,一応その結果を中間的に報告して,各位の御批判を仰ぐ次第である。
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