特集 原爆症の10年
産婦人科より観た原子爆弾の影響
三谷 靖
1
1長崎大学
pp.933-937
発行日 1955年11月10日
Published Date 1955/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409201265
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1.まえがき
原子爆弾が女性性機能に及ぼす影響に就ては私共は広島市及長崎市に於ける調査の結果に基いてこれまで度々発表した。従て此処では特にこれに加うべき新知見はないのであるが編集部の要望があるのでこれらを一括して産婦人科医の立場から論じ度い。
周知の如く広島市では昭和20年8月6日,長崎市では昭和20年8月9日に原子爆弾が投下され,両市は人的,物的に多大の損害を受けた。原子爆弾の爆発に際して人体が蒙る障害を都築博士は原子爆弾症又は原子爆弾傷と呼び,この原因となるべき災害威力は1)熱及光の威力,2)機械力の威力,3)放射能の威力に区分出来ると云う。そして爆心地に近い程その作用が強かつたことは云うまでもない。爆心より1km以内で戸外で直射を受けると死亡率は100%であり,2mn以内でも約半数が死亡している。放射能威力としてはγ線と中性子の作用が主なものであるが,此等は又性腺に対しても重大な影響を及ぼすものである。従つて女性性機能に種々甚大な影響を及ぼした,勿論此等被爆者は骨盤内臓器のみならず,全身に強い放射を受け,強く被爆されたものは即死又は比較的短期間の内に死亡し,全身症状に蔽われて産婦人科領域の症状は発現せぬか又は看過されている。従て此処で述べる産婦人科より観た原爆の影響なるものは軽症のものに限られているのである。即ち辛うじて死を免れ生き延びた婦人の調査である。
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