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血尿を伴える硫酸傷の1例
住吉 義級
1
1三菱病院
pp.478-479
発行日 1949年11月1日
Published Date 1949/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1491200276
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火傷が屡ゝ血尿を併發することは一般に知られている事がある.又まれに腸血出,胃又は十二指腸潰瘍が續發した症例が報告されてゐる.硫酸傷に於ても同様血尿を誘發するととが推定出來るのであるが此の種の報告はまだ見受けない樣であるが組織に對する作用機序は同樣な點が多いのであるから火傷と同様,血尿を誘發することは推定出來るのである.火傷が他臓器の出血を起す原因として局所の末梢血管神經の麻痺のため血管の擴張,充血を起し,一方に産生毒素(ヒスタミン樣物質,大澤氏のヒストトキシン)が吸收されるために是等に依つて諸粘膜,諸臓器の充血,漿液の浸出,毛細血管の擴張を見るのであつて潰瘍,又は炎衝の準備性を持つた部位は此のために出血を誘發されるに至るとされてゐる.又一方火傷に依つて腎臓炎を誘發するといふことは認められてゐる樣である.本例の如く比較的廣範圍に亘る硫酸傷に於ても腎臓炎の併發はまぬかれ得ないものと思ふ.硫酸が皮膚に附着すれば強い脱水作用に依つて局所の壊死を生ずるのであつて,或る點に於て熱に依る作用と共通な所があるが一般に硫酸傷は火傷の樣に受傷後間もなく水疱を形成するといふ事が少ない.また糜爛面となるのも火傷の場合とはずつと遅れて來り,疼痛も火傷程強烈なものではない.火傷に依り誘發される出血は受傷後數日〜10數日の間に起る樣であるが本例も受傷後13日目に血尿を起してゐる.火傷には血壓の降下は必至のものであるが硫酸傷に於ては差程顯著ではない.
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