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大学医学部,あるいは医科大学の臨床系講座に求められるものは,臨床,教育,研究の三本の柱であると言われる.これらの統括責任者が主任教授であり,教室を主宰することの重みを痛感している.その主任教授に就任して日はまだ浅く,したがって多くを語る資格はない.就任以来今まで経験したことのないような忙しさに襲われた.しかし,多忙と未熟は理由にならず,じっくり検討する間もなく,三本の柱についても既に当面解決しなければならない問題も山積しつつある.そこで新米教授としてこの三本の柱について愚考を試みた.
まず臨床についてである.私自身は入局以来いわゆる臨床医として育って来た.学位のテーマも臨床的な内容であったし,派遣出張先も症例豊富な病院が多かった.特に大学病院ではbroad spectrumで多彩な疾患の手術に携さわることが出来た.腫瘍,血管障害のみならず,脊椎脊髄疾患,外傷,奇形等一例一例が工夫をすれば症例報告となるような貴重な症例ばかりであった.これらに対して,先輩から教わった手技,文献,手術書を読んで得た知識,学会などで学んだ工夫,さらにはcadaver dissec-tionを行うことによって得られたorientationと自信,などを根拠にdecision makingしつつ手術を行って来た.自分ではそれなりに各疾患に対して手術経験もあり,ある程度の自負も持ち合わせているつもりである.しかし,海外文献を読み,国際学会に出席していつも痛感するのは,欧米の脳神経外科医の手術例数の圧倒的な多さである.オーダーが一桁違う.私自身の経験が100例とすれば,事もなげに1000〜2000例の手術成績が論じられている.その差は各国の国民性,保険制度を中心とする医療事情,さらには昨今日本脳神経外科学会でも論じられている人口比における脳神経外科医の数の問題などによるのであろう.高度の専門性を有した者がその分野の手術を行い,成績を競う.その成績を保険会社がfollowしさらに手術例数が増え成績も向上する.これが米国の状況であるらしく,脳神経外科医のbirth controlも行われると聞く.彼我の差は歴然である.本邦でも各分野で突出した経験を有する脳神経外科医も育ちつつある.しかるにわが大学病院ではどうであろうか?その方向性は保持したいと思うが,現実には仲々難しい。少ない症例を一例一例積み重ねて行くしか方法はない.その際に絶対に怠ってはならないのは文献検索である.初心者であっても勉強さえしておけば,背後から世界のauthoritiesが手術を支援してくれる.時々見うけられる光景として,誰かの見様見真似で手技の目的が感じられない手術,早さだけが目的の手術…….話が説教じみて来た.
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