扉
“手作り”のおもしろさ
増沢 紀男
1
1自治医科大学脳神経外科
pp.95-96
発行日 1995年2月10日
Published Date 1995/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436900971
- 有料閲覧
- 文献概要
脳神経外科の研修をはじめた昭和40年代前半の頃を振り返ってみると,日本語の専門書はほとんどなかった.愛用していたのは大槻外科学各論の上巻,頭部—脳・神経(昭和31年,文光堂)清水健太郎教授の執筆によるものであった.検査としては,神経学的検査,髄液検査,レントゲン検査,脳波検査,心電図,放射性同位元素による検査,超音波による診断法と数少ないものであった.それらの中でも脳神経外科として重要であったものは脳血管撮影,気脳撮影ならびに脳室撮影であった.後二者はCTスキャン出現以来はほとんど行われなくなった検査である.
新入医局員の初めのトレーニングは経皮的内頸動脈撮影の手技を覚えることであった.慣れてくると“アンギオ部屋”で一日中何例もこなすようになった.ところが経皮的椎骨動脈撮影法は難しく,なかなかその秘技は伝授されなかった.間違って脊髄腔内に造影剤を注入してしまうこともあり危険な手技であった.椎骨動脈穿刺は頸動脈走行より内側でやや内側に向かって刺入し,針先を第6ないしそれより上位の横突起部あるいは椎体にあてる.針先にこの骨の感じがよくわかるので闇夜で杖をつくようにコツコツと横突起部に沿って針先を外方へずらし,前結節の隆起のあたりでその上縁あるいは下縁に沿って6-8mm針を刺すと椎骨動脈に当たった.その頃は脳血管撮影一つをとってみても,神経学的検査を充分に行った上で,適応を充分に考え,テクニックを駆使する“手作り”のおもしろさがあった.
Copyright © 1995, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.