連載 ケアフルな一冊『一号線を北上せよ』『なんじ自身のために泣け』
旅
坂田 三允
1
1群馬県立精神医療センター
pp.81
発行日 2003年7月15日
Published Date 2003/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689900594
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角を曲がるとそこはもう旅……。永六輔のせりふだ。通いなれた道でも昨日とは違った町の表情に出会う。ついこの間まで賑やかに軍艦マーチを鳴らしていたパチンコ屋がシャッターを下ろし,長い間ありがとうございましたなどとあまり上手とはいえない文字で書かれた日に焼けた紙が風に吹かれている。ふっと寂しくなる。何があったのだろう。この貼り紙をした人はどんな思いでこの文字を書いたのだろう……。今,どうしているのかな。引っ越ししたのだろうか……。
私はしばし空想の旅に出る。旅が好きだ。というよりも定住することになじめない。身動きがとれなくなってしまうのが苦しい。生活を営む必要性から,やむを得ず定住生活をしているけれど,心はいつもふわふわとまだ見ぬ土地へ漂っていく。私のなかにも漂泊の民の血が流れている,と思う。
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