扉
脳神経外科医の悩みと喜び
生塩 之敬
1
1熊本大学脳神経外科
pp.971-972
発行日 1993年11月10日
Published Date 1993/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436900731
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ある所に,患者さんが受診に訪れるといつも“もう手遅れだ,手遅れだ!どうしてもっと早く連れてこなかったか”と家族をなじるお医者さんがありました.ある日,雨漏りを修繕中に屋根から落ちて頭を打ち,意識不明になった人がかつぎ込まれてきました.先生はいつものように“もう手遅れだ,もう駄目だ!どうして早く連れてこなかったか”と回りの人を叱りました.皆はびっくりして“でも先生,いま落ちたところで,大急ぎで連れてきたのですが”と答えました.すると先生は言いました.“落ちる前に連れてこい.”
これは古いジョークですが,脳神経外科の領域ではこれがジョークでなくなっています.診断技術の進歩により“落ちる前”の病変がどんどん発見され治療されています.破裂する前に脳動脈瘤が発見され,躊躇なく,しかも安全に手術がなされています.いったん破裂すると高率に命を奪う病気ですから,患者さんにとっては全くの命拾いです.脳腫瘍もしかりで,発症前に早期のグリオーマが発見され取り除かれています.時間が経過すると高率に悪性変化する腫瘍ですから,切り傷が出来ただけで手術の前後には何も変わらない患者さんの気持ちはともかくも,悲惨な患者さんをたくさんみてきた私たちは障害もなく治癒したことを“ああ良かった”と喜びます.
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