扉
印度の旅から
倉本 進賢
1
1久留米大学脳神経外科
pp.497-498
発行日 1990年6月10日
Published Date 1990/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436900079
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昨年10月,脳神経外科学国際会議に出席のために私は初めて印度を訪ねて強烈な印象を受けた.この学会には日本からも多くの方々が出席されていたので,私と同じ経験をされた方が多いと思うが,私なりの旅の思い出を述べてみたい.
学会もどうやら無事に済んで安堵し,あとの2日間はゆっくりした気持ちで観光に廻ることになった.翌日,午前6時10分発の急行列車でアグラに行くために朝早くニューデリー駅に着いた.まだ明けやらぬ駅舎は構内を塒にしている人々の様々な姿で溢れていた.寝ている人,うづくまっている人,眠たそうな眼をこする人,立っている人,歩いて来る人,その人々が憂愁に満ちた眼差しで私共を見つめていた.そこには貧困な人々の赤裸な姿があったが,特に苦悩と憂いにみちた瞳が私にはなによりも堪えがたく思われた.私はその人々の間を縫うようにしてホームに入り,特別列車の指定席に坐って,ほっとした安堵を感じた.この時,私は自分が特別の人間,駅にうづくまっている人々とは別の生活の人間であることを無意識に感じていたのである.
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