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戦後,わが国はコストを抑えながら,質の高い医療へのアクセスが容易で,公費割合が比較的高く,均衡の取れた医師の地域分布を促進してきた.その成果はあったが,医師・医療職1人ひとりの自己犠牲により成り立ってきたシステムであり,時間外労働は度外視されてきた.われわれ世代の脳神経外科研修医時代の働き方は,早く一人前の術者になるために勤務時間外でも競って手術に参加してきた.病院に長くいる医師が先輩や看護師から褒められ,また,ハラスメントを受けることは当たり前で,手術中に手が出る先生も少なくなかった.そのおかげで育ててもらったと感謝しているが,今同じことをすると法律で罰せられる.当時は,医療の質,医療安全,インフォームド・コンセント,エビデンス・ベイスト・メディスンといった言葉もほとんど聞かず,今思えば成熟していなかった頃の医療と感じる.現在の医師には,従来業務とともに公共性,高度の専門性,技術革新と水準向上が求められ,仕事量は格段に増えた.過酷な労働環境での勤務が続くと,医師の心身の健康へ深刻な影響が出ることで離職や休職,残った勤務者へのさらなる負担増加へとなり,地域医療の崩壊に続く悪循環となる.地域医療だけでなく大学病院も,診療,教育,研究,生活するための外勤と果てしのない労働制度と言える.それらの是正と同時に,ITの発達,人の価値観なども変化し,医師の働き方改革が必要に迫られることとなった.本制度は2024年度には施行されるため,各病院で主治医制からチーム全体体制や,休日の体制の変化など少しずつ改善されつつある.私は,(一社)日本脳神経外科学会男女共同参画委員会,日本性差医学・医療学会にも所属しており,医師の働き方改革とリンクしている部分も多いため,この際,一緒に解決していければと考えている.
学生には,自分の好きなこと,得意なこと,世の中に役に立つことを専門分野にすれば苦労は少ないと教えてきた.好きな趣味を仕事にすれば幸せであるが,少数派かもしれない.私自身は仕事をしていくうちに壁にぶつかり,痛い目に会い,それを越えたときに生きがい・やりがいが生まれ,熱中してきたように思える.熱中できることや感謝できることがあることは幸せと思っている.この考えに同世代は共感してくれると思うが——若い世代はわからないが——仕事のやりがいを感じれば苦にはなりにくく,天職と思えれば最高で,そこに働き方改革の考え方へつながる糸口があるように思える.
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