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人にはそれぞれいろいろなコンプレックスがあるが,私の場合,その1つに絵が下手なことがある.芸人たちが人物や動物の絵を下手にしか描けないことを笑う「アメトーーク:絵心のない芸人」というテレビ番組があるが,私はこれを見ていてもまったく笑えない.なぜなら,私の描く絵はそれ以下だからである.
この「絵心のある」という能力が脳神経外科医にとって重要であることに気づかされたのは,入局してすぐであった.私は昭和56年に九州大学脳神経外科に入局した.当時の北村勝俊教授や二代目の福井仁士教授の手術記録には,英文の詳細な記述に加えて,手術所見の綺麗な絵が描かれており,この絵を見るだけで,長時間に及んだ手術の所見を一瞬にして把握できることに深い感銘を受けた.当時はCTスキャンや脳血管撮影などの二次元画像の所見をもとに手術を行っていたため,手術所見を三次元的な絵で描出することは,手術手技に匹敵するほどに重要であると研修医の私でも理解できた.三代目の佐々木富男教授からも,手術所見の絵をきちんと描けない脳神経外科医は手術も上手くならないと厳しく指導された.確かに,諸先輩方を見ていると,絵の上手い人は手術も上手いのである.しかし,絵心がない私は,先輩方の手術記録,種々の手術書,さらに本誌の「解剖を中心とした脳神経手術手技」などの絵を模倣しながら,その場その場を何とか切り抜けてきた.その後,画像技術の急速な進歩があり,手術所見の絵はあまり重要視されない風潮となった,と私は誤って思い込んでいた.平成22年に,「解剖を中心とした…」に念願の執筆機会をいただいたが,「3次元heavily T2強調画像を用いた腰仙部脂肪腫の手術」1)という内容で,手術所見の絵はまったく掲載していない.
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