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脳神経外科の扉を書かせていただくのもこれが2度目である.教授職を拝命してからすでに10年が過ぎてしまった.私のように母校に僅か1.5年しか在籍せずあとは外回りばかりして突然助教授3年教授10年の経験を積んだ人もそう多くはないだろう.現在教授になっている方の履歴を拝見すれば多くの方が母校の要職に長く居られて研究業績も臨床経験も豊富に積まれたうえで,教授になられているように拝察される.しかし世の中には私のような例外もいても悪いことではないと思っているが,口の悪い後輩の先生からは棚から牡丹餅式教授などと言われたこともある.確かに,大学医局での生活で研究費の捻出方法やいろいろな帝王学をなに一つ学んでいない人間が教授になったので周囲の人には大変迷惑をかけてしまった.これから少しでもその償いができれば幸いである.
最近Neurosurgeonsに菊池晴彦教授が書かれているが,ある試算では平均すると一人の専門医の年間の手術件数は19.3件,腫瘍2.8件,血管3.3件とのことである.外科である脳神経外科で手術件数がこのように少なくては,自分の技量を向上させることはおろか,維持させることも不可能である.私が駒込病院にいたときはすでに約15年前になるが,その時術者が5人でmajor手術が年間約100件で一人20件程の手術を手掛けていた.振り返ってみるとその当時自分の手術技量がその手術件数で向上していたとは思えない.現在東京で1年間の破裂動脈瘤数を専門医の数で割ると1という数字がはじき出されるという話を聞いたことがある.手術件数の点でも私の現在の立場はluckyと言わざるを得ない.しかし自分さえ良ければ良いというわけにもいかない.専門医の試験をしてみるとすぐわかるが,専門医受験までにほとんど手術をしていないあるいはさせてもらっていない受験生がかなりいることがわかる.最近機会があってアメリカのレジデントの生活を知る機会があった.非常に大きい大学でも毎年せいぜい二人のレジデントを入れるのみである.人数制限をする代わりに,レジデントには手術を年限に応じて難易度に応じてかなりの部分まで任せている.それこそ家に帰る暇はほとんどないような生活ではあるが,レジデントになれば修業年限内にたくさんの臨床経験を積むことになる.動脈瘤に触ったこともないような専門医が出現することはありえない.しかもboardをとればprivateであれacademicであれ収入は跳ね上がる.もちろん手術が下手であればmalpracticeが多くなり脳外科医として看板をはるのも難しいことになるだろう.またレジデントになる前にPh.Dになっている人も多くレジデント期間にも一定の研究期間が与えられそれなりの研究ができ,忙しい臨床の合間をぬって夜研究室に来ることも多いと聞いている.学会で立派な研究発表をやっているyoungたちはそのような背景をもっている人が大半であるらしい.そのような人達は一旦staffになれば,忙しい臨床の合間にうまく人を使ってoriginalityのある研究を発表している.日本では脳外科医がneuroradiologyもin-tensive careもやらねばならないので現在でも人が足りないのは事実である.しかし,日本の脳外科(手術)医がoverflowしていることも確かである.
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