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Ⅰ.はじめに
海馬硬化症(hippocampal sclerosis)を主な原因とする内側側頭葉てんかん(mesial temporal lobe epilepsy:MTLE)は外科治療による発作抑制が効果的で,その手術法としては,前部側頭葉切除(anterior temporal lobectomy:ATL)による扁桃体海馬摘出術と,側頭葉内側構造物である海馬,扁桃体および海馬傍回(parahippocampal gyrus)のみを摘出する選択的扁桃体海馬摘出術(selective amygdalohippocampectomy:SA)がよく知られている.
ATLは,言語優位側の手術では,術後の言語性記銘力の低下13)や,側頭葉内の視放線が一部損傷されることによる対側の上1/4盲の出現が問題となる.ATLの合併症を回避するためにSAが開発されたが,記銘力中枢である海馬を切除するため,海馬に記銘力の機能が正常に温存されている場合には,両手術法ともに術後の記銘力低下が問題となる.一般に,海馬硬化症においては,もともと患者の記銘力が低下している例が多いため,それほど大きな問題とはならない.しかし,MRI上で海馬萎縮および海馬硬化症の所見が認められない,いわゆるMRI陰性側頭葉てんかん(MRI-negative temporal lobe epilepsy:MRI-nTLE)は術前の記銘力が正常に維持されていることが多いため,海馬切除後に記銘力低下が顕著となる可能性が高い.このMRI-nTLEや腫瘍関連性のMTLEに対して,記銘力を温存しながら発作抑制を行える手術法が求められていた.
2006年にShimizuらは,MRI-nTLEの言語性記銘力の温存に,軟膜下皮質多切術(multiple subpial transection:MST)11)を海馬に応用した経上側頭回到達法による海馬多切術が有効であることを発表した17).筆者らは海馬多切術を経シルビウス裂到達法で行うことにより,側頭葉外側皮質の損傷を回避し,さらに低侵襲に手術を 行うよう工夫している18).本稿では代表例の術中写真を提示しながら,経シルビウス裂到達法による海馬多切術(transsylvian hippocampal transection:TSHT)の手術手技と記銘力および発作予後について述べる.
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