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「扉」には隈部俊宏先生から「目は口ほどに物をいう」をいただきました.目の奥をじっとのぞき込んでくる赤ちゃんの目,視線を合わさない人々,目で患者さんの容態を把握できる,などなど…2年ほど前に北里大学の脳神経外科教授に就任された隈部先生ですが,風貌に似合わず意外に優しい面があるとのご本人の談です.学生や研修医の純粋で澄んだ目に元気づけられ,目標に向かって目線を外さず努力を続けたいと述べられています.
さて,「総説」には奈良県立医科大学の中瀬裕之教授から脳の静脈還流障害について大変立派な原稿をいただきました.中瀬先生は卒業後,市中病院で臨床研鑽に打ち込んでいるころから静脈還流に興味をもたれ,大学に帰って脳静脈還流障害の基礎研究を始め,当時の榊教授の紹介でマインツ大学のKempski教授(Neurosurgical Pathophysiology)のもとに留学され,世界がもっぱら脳虚血,すなわち動脈還流障害の研究に血道を上げていた時代から静脈還流障害の研究に没頭されていました.当時,脳静脈還流障害の適切なモデルがなかったことから「脳静脈還流障害モデル」を初めて確立し,脳静脈梗塞に伴うペナンブラ領域や脳損傷領域の経時的拡大,軽度の脳静脈還流障害に脳圧迫が加わることの危険性,脳静脈梗塞に対する薬物療法など次々に画期的成果を挙げておられます.本総説ではこれらの基礎研究と注意深い臨床観察にもとづき,脳神経外科手術における静脈還流障害(静脈梗塞)について具体的に解説されています.脳静脈還流障予防のための術前検討と手術アプローチの選択,術中の脳静脈温存法と安全な静脈切断法,脳静脈損傷時の対処法など,常に静脈還流の重要性を念頭において手術に当たってきた中瀬先生ならではの実用的で鋭い指摘がまとめられています.近年の脳神経外科では無症候性や軽症症例が増え,高齢者手術も増加し,手術の安全性や完璧性が強く要求される時代になりました.静脈還流への配慮はますます重要となっています.脳神経外科医必読の総説です.
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