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新年号の「扉」に早川徹先生のお言葉をいただきました.昭和30年頃の久留勝先生の「系統外科学」では「外科は組織損傷を前提とする『侵襲的治療』であり,その意味では『本道』である内科からはずれた『外道』的治療である」とされていること,しかし近年では手術の低侵襲化や種々の低侵襲的治療法が導入され,その概念が変わってきたこと,などが述べられています.手術の「低侵襲化」の提唱は20年近く前,早川先生が第23回日本脳卒中の外科研究会を開催された際,主題を「less invasive surgery for cerebral stroke」として取り上げられたのが本邦で初めてのように思います.この頃は頭蓋底手術など,手術規模を拡大して新たな領域を開拓する努力がなされていました.早川先生もtransoral transclival approachによる脳底動脈瘤のクリッピングやlong vein graftによる頭蓋内血行再建術などに取り組んでおられましたが,その一方では手術の低侵襲化の必要性を痛感されていたようです.その後,多くの外科領域で手術の低侵襲化が追求され,また内科では血管内治療や内視鏡の使用が盛んとなり,外科と内科の垣根が低くなってきたものです.しかし,多くの場面では今も手術は最も強力な治療手段です.この手術は外科医だけに可能であり,それゆえ外科医はその責任者として手技の研鑽や改良,開発に全面的な責任を負っているといえます.
このようななかで,昨年の脳神経外科学会学術総会では,テーマを「脳神経外科という医学―医学に育ち,医学を伸ばす―」として,脳神経外科が医学のなかで果たすべき役割や「立ち位置」について考えてみました.これで感じたことは,早川先生の述べられているように,日本の脳神経外科医は手術手技にこだわりその修練と改良に努める一方,患者さんの治療のためには手術以外の方法にも力を注ぐ点です.海外では珍しい取り組みです.本邦での恵まれた医療環境や医師の熱意とパワーや思考の柔軟性が,これを可能としているのかも知れません.多くの国ではこのような余裕はなく,「ひたすら手術に専従する」状態です.日本脳神経外科学会は会員数が9,000名を超えたといいます.ますます発展し,世界の医学に貢献してほしいものです.
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