扉
てんかん診療雑感
川合 謙介
1
1NTT東日本関東病院
pp.3-4
発行日 2015年1月10日
Published Date 2015/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436202939
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てんかん診療に関わっていると,この疾患の特殊性を痛感させられることが多い.対象年齢は新生児から高齢者まで幅広いし,関連診療科も脳神経外科以外に神経内科,神経小児科,精神科と多岐にわたる.脳神経外科としての関わり方だけでも,難治性てんかんの外科治療から良性てんかんの外来診療までさまざまである.医療上の特殊性だけでなく,何より「てんかん」という病名には微妙な負の語感stigmaが伴う.医学用語として「てんかん」を使用している限りはあまり気にならないが,一般社会の中で用いられる場合にはこの言葉にはどうしても偏見がつきまとう.
偏見の背景には,病気の基本的知識の欠如がある.それまで健康だった中高年者に突然発症することも多いこと,ほとんどの発作は副作用の少ない抗てんかん薬で抑制できること,外科治療で根治する患者がいること,などを説明すると,「成人病と似たようなもので,特別な病気ではないのですね.まったく知りませんでした」と驚く一般の人が多い.社会全体のてんかんに対する知識不足は偏見を助長し,適切な診療へのアクセスや診療レベル向上の妨げとなってしまう.このような傾向を払拭するには,一般社会に向けた啓発活動が欠かせないわけだが,ごく最近までそのような啓発活動はほとんど行われることはなかったように思う.2007年に私はてんかん外科に携わる有志や手術治療を受けた患者本人や家族と,てんかん外科治療のあまりに低い認知度を何とか改善したいとの思いから市民公開講座を開催したが,この時点でも一般向けの講演会は極めて限られたものであった.知識不足が偏見を生み,偏見が知識の普及を妨げるという悪循環に陥っていたと言える.
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