扉
伸びてゆく脳神経外科のために
井奥 匡彦
1
1近畿大学脳神経外科
pp.5
発行日 1985年1月10日
Published Date 1985/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436201946
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およそ国の文化の発展には,民族の先天的な特性が大きく反映するものである.そこで私は,Lafcadio Hearnの随筆集『心—日本の内面生活の暗示と影響—』の幾つかの部分を吟味し,医学にも敷衍して考えてみたい.1896年(明治29年)に彼の故国で出版された古いもの(邦訳・岩波文庫)ではあるが,彼が心から日本を愛し,熱心に研究した心情が理解されるし,日本のその頃の特性が今もなお変っていないのに思い当る節もあるので引用した.自国を批判的に書くと日本では,「西洋かぶれしている」とか「日本人らしくない」とか謗られ兼ねないが,皆の力で国の繁栄に寄与しようとするとき,決して褒めたことではない.
彼は日本が清国に勝ったことに驚くと同時に,後に及ぶであろう列強の重圧を危惧しながら,「日本はこのうえ雄志を伸ばして国家永生の偉業を達成する為には,そこに幾多の暗澹たる障害が横たわっていようが,視野を開こうとしない日本人は何等の怖れも疑いも抱いていない.恐らく将来の危機は,実にこの途方もない自負心にあるであろう」と語っている,その予言は当るべくして当ったのである.Hearnはさらに日本人の天性について「科学的な職能,たとえば医学,外科手術(日本ほど優れた外科医の居るところはない),化学,顕微鏡などの方面では生来の適応があり,既に世界にきこえるような仕事をしている.しかし天性に恵まれない方面では何一つとして目立つものがない」と語っている.
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