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Ⅰ.はじめに
鞍結節髄膜腫は鞍結節や視神経交叉溝から発生する髄膜腫で,その発生頻度は頭蓋内髄膜腫の3~10%といわれている1,19,20,26,38).多くの患者は片側,もしくは両側の視力低下や視野障害を呈し視機能の悪化が唯一の症状であることも少なくない.視機能の温存もしくは改善が手術の最大の目的となるが,過去の報告でも約20%に術後の視機能悪化例が発生するといわれている2,6,10,16,27,32,35-37).術後視機能の予後不良因子として腫瘍径,術前の視機能,罹病期間,手術到達法などが検討されているが未だ結論は出ていない10,13,16,29,44).しかし本疾患において手術操作が術後の視機能の結果に何らかの影響を与えていることは多くの術者の共通認識である.視機能悪化の原因としては視神経そのものに対する直接損傷と視神経・視交叉への栄養血管損傷の一方もしくは両方が関与していると考えられている6,10,19,36).
鞍結節髄膜腫では腫瘍の発生母地や進展形式から視神経は外上方へ,視交叉は後上方へ変位していることが多い.視神経や視交叉を上方へ圧迫,変位させる髄膜腫は鞍結節髄膜腫と鞍隔膜髄膜腫のみである.視神経管内では可動性の乏しい視神経が脳槽部では外上方に大きく変位するため視神経管入口部では視神経が菲薄化し,ときに屈曲している場合もある.視神経の直接損傷を回避するために腫瘍の適切な内減圧とともに腫瘍剝離操作前(手術早期)の視神経管開放を強調する報告も多い29,30,33,34).発生母地は近いが前床突起髄膜腫や蝶形骨縁内側髄膜腫,蝶形骨平面髄膜腫はいずれも視神経や視交叉を下方に変位させる.これらは腫瘍の大きさに比して視機能低下の程度が軽く,術中所見でも視神経の形態が正常に近い形で保たれていることが多い.腫瘍が視神経や視交叉の上方に位置するか,下方に位置するかは栄養血管の温存という側面からも重要である.内頚動脈から分岐した眼動脈と上下垂体動脈はいずれも視神経や視交叉の下面から栄養血管を分岐する.鞍結節髄膜腫の手術では視神経や視交叉下面から腫瘍を剝離する操作が多く,その際に栄養血管を損傷する危険性は低くない36).一方視神経・視交叉上面と腫瘍との剝離が主となる蝶形骨平面髄膜腫などでは神経の直接損傷はあっても栄養血管損傷の可能性は低くなる.くも膜を温存しての腫瘍摘出(くも膜外摘出)は髄膜腫手術の基本であるが,本疾患においても視神経周囲のくも膜を温存できれば術後視機能低下の可能性は格段に低くなる.一見視神経が全周性に腫瘍に内包されているように見えても,十分な腫瘍の内減圧がなされると視神経と腫瘍の間にくも膜面が見えてくることはよく経験することである.
鞍結節髄膜腫に対する手術到達法にはさまざまな工夫や変法が報告されているが経頭蓋経由(上方)は,①pterional transsylvian approach,②unilateral subfrontal approach,③bicoronal subfrontal approach,④anterior interhemispheric approachの4つに大別される.下方からの手術到達法は拡大蝶形骨洞到達法で,ここ2,3年の報告は極めて多い.
鞍結節髄膜腫に対する術前検査,手術到達法の選択,高位到達法としてanterior interhemispheric approach 14,17,36,43),低位到達法として拡大蝶形骨洞到達法5,7-9,11,12,15)の手術手技とピットフォールに関して詳述する.
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