扉
世阿弥の「稽古哲学」に学ぶ脳神経外科学の訓練
橋本 卓雄
1
Takuo HASHIMOTO
1
1聖マリアンナ医科大学脳神経外科
pp.227-228
発行日 2011年3月10日
Published Date 2011/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436101370
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近代脳神経外科学の歴史は,医学の中ではまだ浅い分野である.しかしわが国の脳神経外科専門医制度は麻酔科に続いて2番目に専門医制度が確立しており,最も厳しい,qualityの高い専門性を求めてきた.必要な知識・技術を身につけ,将来的にはsubspecialtyをもち,指導的立場に立つ優れた専門医を養成することを目標にしている.2011年からはA項,C項が廃止され,「病院群研修プログラム」の基幹施設,研修病院,関連施設で訓練することになる.しかし重要なことは,単に知識・技術を身に付けるだけでなく,いかに精神面で人格を涵養し,社会のニーズに応えながら次世代に継承していくかであろう.
日本の伝統的な芸能である能は,観阿弥,世阿弥の時代から現在まで600年以上にわたり脈々と続いている.世阿弥が書き残した,『風姿花伝』,『花鏡』,『伝書』には「いかにして伝統芸能が生き残るか」「どのように伝統を守り,代を重ね,代を乗り越え知と技を蓄積していくか」の厳しい心構えが書かれている.これらの書物は後継者向けのマニュアルではなく,すでに芸を完成したプロフェッショナルの人間に問いかけているように思える.最近,西平直著『世阿弥の稽古哲学』(東京大学出版会,2009年刊)を読んだ.教育学の立場から世阿弥の言葉を見直しているが,能にまったくの「目利かず」の私にも,あらためて脳神経外科の訓練が『世阿弥の稽古哲学』に学ぶ多くの点があることに気づいた.
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