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小生も,山口大学に赴任して10年が過ぎ,振り返る余裕も少々出てきました.赴任当初びっくりしたのは,当時150万の県民人口に対して顕微鏡手術を行っている施設が40余あったことです.なんとか集約化をお願いしてきましたが…
今,NHK大河ドラマの「龍馬伝」が人気です.物語の後半にさしかかり,「萩往還」や「下関砲台」,奇兵隊の「功山寺」などが頻繁に出てきてますますうれしくなっていますが,一方で,現在における山口の状況は,長い歴史と地勢の知識なしには理解できないこともわかりました.ここは吉田松陰,高杉晋作など多くの傑物を生み,薩長土肥の争いからも抜け出した,維新最後の勝ち組であります.このエネルギーの源を土地の方に聞くと「関ヶ原の戦に負けて萩に押し込められた300年の鬱憤」と事も無げに答えられます.維新後も,伊藤博文をはじめ8人の総理大臣を輩出しましたが,合計在任期間は約半世紀で,この間日本を思うように動かしてきたのかもしれません.第二次世界大戦では,軍港・航空隊基地・軍需工場が集中していたために焦土となりましたが,国による太平洋ベルト地帯構想の恩恵を受けて速やかに復興しました.そこには,兄弟宰相の地元への支援が十二分に効いていたと伝えられています.都市の分布とインフラにも驚きました.最大の都市は20万人余で,残りはいずれも数万~十数万人の中小都市13市(いずれも合併前)が存在しています.都市は2本の高速道路と複数の自動車専用道路で結ばれ,最長でも1時間半で移動可能です.多くの都市に文化施設や進学校が整備されており,子弟の教育も問題ありません.医療環境も良好で,救急患者のたらい回しもありません.言ってみれば,中小都市で生活が完結している幸福な土地なのでしょう.その基盤は,都市ごとに企業が誘致されることで可能になっている,全国13位の県民所得かもしれません.
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