扉
まごころの医療
塩川 芳昭
1
Yoshiaki SHIOKAWA
1
1杏林大学脳神経外科 脳卒中センター
pp.785-786
発行日 2010年9月10日
Published Date 2010/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436101242
- 有料閲覧
- 文献概要
やや,気恥ずかしいタイトルである.しかし,このような時代であるからこそ,脳神経外科を遂行していく基本的理念は何かと考えた時に,たどり着くのはまごころの医療を実践していくことではないだろうか.
パラダイムシフトと言われて久しい.筆者も,あらゆることが右肩上がりで,今日より明日がよい日となることを信じて疑わなかった時代に育った世代である.CTが導入された頃に脳神経外科の扉を叩き,画像診断1つにしてもその長足の進歩を現場で体感できたのは幸運であった.また卒後数年して脳動脈瘤手術を始めた頃が頭蓋底手術の勃興期にあたり,同じ頃に一般化したビデオ発表を通じて自分の手術手技と世の中の技術水準の進歩を,まさに当事者として渦中で体得できたことも得がたい経験であった.このような科学技術の進歩が脳神経外科そのものを大きく変貌させているわけであるが,コアになる不変の真理たるべき部分が揺るがされてはいないだろうか.画像診断の進歩が,逆に手術目標や結果について画像を中心に論じる傾向につながっていることも然りである.患者背景への配慮が足らずに不要な拡大手術や手術内容の複雑化があるとすれば,それを技術の進歩と言うべきか疑わしい場合すらありうる.筆者もかつて,高難度手術の「成功」例を自分としては謙虚に発表したつもりであったが,できることとやるべきこととは違うとの厳しいお叱りを受けたことがあった.重要なのは科学技術の進歩が人間性の喪失,全人的医療からの後退につながっていないかを自問することである.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.