- 有料閲覧
- 文献概要
自分自身が歩んできた道のりを振り返ってみても,脳神経外科手術の研鑚は外科解剖の理解や顕微鏡下操作手技の取得を中心とした,文字どおりミクロ的視野の世界で奮闘してきたように思います.特に初学者にとっては他に王道があるわけでもなく,手術の低侵襲性が強調される昨今ではありますが,精緻なマイクロニューロサージェリーの世界は今後もさらなる発展を遂げていくことは間違いありません.ここで畑違いの経済学の手法を模倣するわけではありませんが,脳神経外科手術の訓練についてマクロ的視点で考察してみると,今まで多くの事柄が見えていなかったことに改めて驚かされます.私自身が最も興味を持って取り組んでいる疾患である脳動脈瘤を取り上げて論を進めたいと思います.
診療報酬の改定に伴う手術件数の施設基準の話が巷を喧しくさせたのは記憶に新しいものがあります.動脈瘤については当初その手術件数の基準は年間50件とされ,その根拠はどこにあるのかはともかくとして,諸先生方の働きかけにより条件付きで30件と緩和されて,その後はひとまず焦眉の話題から遠のきつつあります.その際に,実態を反映させるべきとする主張の根拠となった動脈瘤手術の現状が脳神経外科学会のホームページに公開されています.そこには全国の2001年に施行されたclippingの件数が1,173施設(A項350,C項823,これは全国の約97%をカバーしています)から報告されており,合計で破裂動脈瘤は17,491件,未破裂動脈瘤は8,050件が手術されていました.ちなみに2001年に新たに脳神経外科認定医を獲得した人数は223人でした.したがって,単純計算すると,最近の認定医一人当たりの生涯経験clipping数は115件となり,内訳は破裂79件,未破裂36件となります.この予想生涯経験clipping件数は,杏林大学脳神経外科関連・派遣14施設での年間手術集計と過去10年間の平均入局者数(2.2人)から算出した値(破裂104件,未破裂55件,2002年)とおおむね近似していました.すなわち若手脳神経外科医のミクロ的視野では,無限に経験できるという錯覚に陥りがちな生涯経験手術数が,実はマクロ的概算では極めて身近な数値であるわけです.
Copyright © 2004, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.