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貴誌に掲載の中村太源先生らの症例報告「小脳虫部原発卵黄囊腫の1例」5)を興味深く拝読いたしました.小脳原発の卵黄囊腫は大変珍しく,また卵黄囊腫に対するADC value, 1H-MR spectroscopyなど新たな知見についても記載され,とても意義のある報告となっております.中村らも述べているとおり,卵黄囊腫を含めた胚細胞腫は後頭蓋窩に発生することは稀でありますが,中村らが述べているより多くの報告があります.中村らは,“後頭蓋窩原発の胚細胞腫については,15例の胚腫,および5例の卵黄囊腫,1例の胎児性癌が報告されているにすぎない”と述べていますが,中村らが指摘していない2008年以前に報告された症例でも,中脳原発胚腫3例1,3,7),延髄原発胚種2例6,8),第4脳室原発卵黄囊腫1例4)の報告があります.中村らの報告と合わせると,後頭蓋窩原発の胚細胞腫については,20例の胚腫,および6例の卵黄囊腫,1例の胎児性癌が報告されているということになります.これらの症例には腫瘍の発生部位と性差に興味深い関係があります.渉猟し得た範囲では,後頭蓋窩原発の女性の胚腫は5例あり,すべてが延髄原発です.延髄原発の胚腫の残りの1例はKlinefelter syndromeに伴う症例であり2),この症例を含め延髄原発の胚腫すべてでXX染色体をもつ症例ということになります.残りの中脳,小脳橋角部,小脳半球,小脳虫部の原発を合わせた16例はすべて男性です.中村らの報告と合わせ,後頭蓋窩原発の卵黄囊腫6例もすべて男性であることを考え合わせると,後頭蓋窩の胚細胞腫は,発生部位によりほぼ性が決まっていると言えます.これらのことは,Koizumiら3)が指摘するように,男女でneural tubeの発生過程で起こる差と胚細胞腫の発生部位とが関係することを示唆していると思われます.このように稀な症例の報告では,その症例の発生機序を推測することも肝要なことと思われます.
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