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Ⅰ.最近の動向
頭部外傷,なかでも重症患者の治療と管理に関するガイドラインは,2000年初頭,日米欧で一斉に整備された.米国では,Brain Trauma Foundation(BTF)によるevidence-based guidelineが,1995年に初版,2000年に第2版,2003年に第3版の改訂版が公表され現在に至っている4-6).ヨーロッパでは,1997年にEuropean Brain Injury Consortium(EBIC)によりガイドラインが作成された24).このガイドラインは,医療事情の異なるヨーロッパ各国の実情に合わせて,専門家の意見などに基づいて作成されたものである.英国では,2003年に独自のevidence-based guidelineも発表している31).わが国では,日本神経外傷学会のガイドライン作成委員会により1998年から作成が開始され,2000年に初版,2006年に第2版が発表された32,33).日本のガイドラインは,過去の臨床結果に専門家の意見を加味して作成したものでevidence-basedではないが,日米のガイドラインの内容には大きな差異はない.
一方,軽症頭部外傷患者の診療ガイドライン作成の試みは,1980年代に英国から始まり1),2000年代前半までにイタリア,スカンディナヴィア,米国などで整備された12,14,15).特に2002年に,ヨーロッパ脳神経外科学会European Federation of Neurological Societies(EFNS)が,1966~2001年の論文を対象としてMEDLINE検索を行い,125編の論文を基に作成したガイドラインが,現在欧米における診療ガイドラインのスタンダードとなっている46).わが国では,2006年に発表された重症頭部外傷のガイドライン第2版33)に,初版では参考資料としての掲載にすぎなかった「小児と高齢者に対する治療・管理」を章として内容を充実させるとともに,「軽症・中等症頭部外傷への対処-重症化の危険因子」の章を新たに設けた.しかし,軽症・中等症頭部外傷に関しては,重症化の予測因子と危険因子が列挙されたにすぎず,第2版もまだ十分なガイドラインにはなっていない.したがって,わが国における軽症頭部外傷患者の診療は,まだ脳神経外科医おのおのの経験と判断に任されているのが実情である.しかし,頭部外傷の95%以上は軽症頭部外傷であり,中等症と重症は合わせても5%にすぎないと推測されているように,実際に,ほとんどの脳神経外科医にとって,外来で最も診療機会の多い疾患は軽症の閉鎖性頭部外傷である46).診療録の病名記載で多いのは,「頭部打撲脚注1」や「脳振盪脚注2」の名称で,軽症頭部外傷の同義語のように使用されている.
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