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Ⅰ.は じ め に
2001年11月より現在まで,カナダトロント市のトロント小児病院脳神経外科においてclinical fellowとして脳神経外科臨床に従事し,特に小児頭部外傷の初期対応から脳神経外科的治療までを学ぶ機会に恵まれている.同院では2005年6月までの3年半に2,084例の小児外傷患者を受け入れ,うち727例の頭部外傷を脳神経外科が担当し,さらに398例の重症頭部外傷をICU管理した.一般的に,北米における年間500,000件の頭部外傷患者が救急外来を受診し,そのうち7,000件が死亡,29,000人が重度後遺症を持つとされている.また外傷による入院小児患者のうち75%が頭部外傷を有し,中枢神経系の外傷による死亡はこの15年間,依然,外傷による死亡理由の第一位であることから,脳神経外科の重要性は,外傷診療チームスタッフにも深く認識されている.また,小児虐待の診断治療は,日本国内においても症例の増加に伴い,広く認知されるようになってきたが,その診断のうえで脳神経外科の果たす役割は大きい.
原則として,トロント小児病院では16歳未満の外傷患者を受け入れ,16歳以上の患者については周辺の成人外傷センターに搬送することとしているが,基本的には日本における救急患者の受け入れと同様,①近隣医療施設から致命的損傷の疑いあるいは確診例の紹介,②prehospital field trauma triage guidelineに沿い,救急隊により,事故現場から直接搬送,以上の症例群をおもに取り扱っている.
小児頭部外傷の初期治療から頭蓋内圧管理に至るまで,明確に整備されたガイドラインはいまだ知られていない.2003年に北米のガイドラインが暫定的に発表されたのも記憶に新しいが1)evidenceとしての拘束力は強くないものである.そのうえ,小児虐待の臨床像は多彩で,治療の標準化は困難であることも問題である.
本邦における少子化や頭部外傷発生頻度自体の減少,また脳神経外科医師の増加に伴って,1人当たりの医師が重症頭部外傷の小児例を管理する機会は減少すると思われる.その一方,EBMを基盤とした北米の系統だった頭部外傷管理はますます科学的根拠を増している.この時勢を鑑みて,トロント小児病院における臨床経験を報告することは,われわれ若い脳神経外科医師の将来に有用であると信じ,僭越ながら筆を進めることとした.
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