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過日,臨床研究に関する講演を依頼された際,まず頭に浮かんだのが治療研究の短縮語「治研」であった.改めてこの用語の正確な意味をと,手許の辞典をめくったが見あたらず,ようやく電子辞書の広辞苑で「ちけん【治験】」を見つけた.“治療の効果,また臨床試験により薬物の効果を検定すること”と記されていた.そこで今度は「臨床試験」について院内の当該部署で解説書を拝借し調べてみた.そこには,ヒトを対象とする研究「臨床研究」が土台部分にあり,医薬品に限らず医療機器,その他の医療関係のものを新たに導入する際その安全性や有効性を検証する「臨床試験」がその上に構築され,それを基盤に医薬品などの承認申請のための【治験】が行われるのが本来の姿であること,わが国では医薬品を対象とした【治験】の制度化のみが進み,2005年4月になってようやく医療機器に導入されたこと,などが記されていた.「臨床研究」を適正かつ円滑に実施する専任スタッフがclinical research coordinator(CRC)で,直訳すると「臨床研究コーディネーター」である.わが国ではこれを“治験コーディネーター”と呼んでいることからも,【治験】がわが国特有の名称であることがうなずける.
前述の講演のテーマが“真に患者側に立つ臨床研究とは?”であった.かつて,たとえ手術など治療法が確立していても,あえて新たな手段や方法を追い求める風潮が存在した.また,患者を人と思わないような,今では口にできない言葉を耳にした.まさに「メスがドス」(森 政弘:「非まじめ」のすすめ.講談社,1984),「薬が毒」である.当時の診断のために行われる主な検査法としては,空気や造影剤の注入による脳室・脳槽造影や頸部脳血管直接穿刺による脳血管撮影があった.いずれも侵襲的でリスクを伴い患者に与える身体的・精神的負担も大きく,しかも得られる所見は間接的なもので診断結果の妥当性の客観的評価は困難であった.この風潮を根底から覆したのが約30年前のCT導入であった.被験者へのリスク,苦痛が皆無に近く,生きた脳の断面が描出できるようになった.CTから派生した新たなデジタル画像が次々と開発され,生体の形態・機能情報が一般人にも分かりやすい形で提供され,医師,看護師,技師,さらには医学生,患者,家族までもがほぼ同じ土俵に立って情報を交換できるようになった.インターネットの普及がそれに拍車をかけ,情報格差が急速に縮小した.かつての医療における権威主義や閉鎖性は薄まり,そのなかで臨床研究も大きく姿を変えている.
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