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はじめに
脳卒中,外傷,変性疾患などで脳・脊髄の神経細胞が障害を受けると,その機能回復はまず望めない.このような不可逆的な障害から神経機能を回復させようという試みは,神経科学の重要なテーマの1つであり,その戦略としては,神経栄養因子,成長因子の利用や遺伝子治療による残存ニューロンの機能強化と代償を図る考えと,細胞移植または内在性の神経幹細胞の活性化を促すことにより神経組織および機能の再構築を目指すという考えがある.その中でも細胞移植による治療法が注目されたのは,1970年代後半のパーキンソン病モデル動物への胎仔ドーパミンニューロンの移植実験からである.この実験では,中脳黒質ドーパミンニューロンを変性させたラットに胎仔ドーパミンニューロンを移植すると,ラット脳内で移植細胞が成熟ドーパミンニューロンへと分化して運動異常を回復させたと報告されており3),以降,様々な神経疾患モデル動物を用いた細胞移植の基礎研究が展開された.そして,1980年代後半以降には,パーキンソン病に対して患者自身の交感神経節7,12)や副腎髄質クロム親和性細胞1),さらに中絶ヒト胎児脳に由来するドーパミンニューロンをドナー細胞とした移植治療が臨床応用されるようになった.これらの移植治療は一定の成果をおさめているが,交感神経節や副腎髄質クロム細胞による移植では機能面での限界があり,中絶胎児由来の細胞では倫理的な問題を避けては通れない.また,いずれの細胞においても移植神経細胞の生着率が極めて低いという事実も無視できない.例えば,再生能が旺盛な胎児細胞の移植においてさえもその生着率が5%前後と低く,1回の手術で6~8体もの中絶胎児を必要とし,絶対数の不足という点からも,胎児神経移植がパーキンソン病の一般的な治療として定着するのは困難と言わざるを得ない.したがって,新たなドナー細胞の確保と生着率向上のための工夫が今後の再生医療におけ最重要課題といえる.
このような状況のもと,神経疾患に対する細胞移植治療の新たなドナー細胞として注目されているのが神経幹細胞,胚性幹細胞(embryonic stem cells;ES cells),さらには骨髄間質/幹細胞である.われわれは,骨髄間質細胞(marrow stromal cells;MSCs)の神経栄養効果と神経分化誘導作用に着目し,同細胞が細胞移植療法における新たなドナー細胞の確保と生着率向上に向けた戦略へとつながる可能性を検討してきた.本論文では,これらの研究結果をレビューして,再生医療への応用の可能性,特にパーキンソン病に対する再生医療への応用について展望したい.
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