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Ⅰ.はじめに
変性や損傷など様々な原因で障害を受けた中枢神経系は,組織的にも機能的にも再生することは困難である.最近,内在性の神経前駆細胞あるいは幹細胞が脳血管障害後に増殖・分化する可能性が報告されているが,機能的回復をもたらすには不十分である22).障害後の急性期や亜急性期においては神経保護によって神経細胞死を最小限に食い止めることも可能であるが,慢性期においては失われた神経細胞を細胞移植治療によって補うというのが有効な解決法の1つに考えられる.細胞移植治療の候補として自己複製能があり,多分化能を備えているES細胞や神経幹細胞が注目されており,特にES細胞ではドーパミン作動性ニューロンの誘導や,ヒトES細胞からの神経分化の報告もある10).しかしヒトでのES細胞利用においては倫理問題などの制限がある.また神経細胞やグリア細胞への分化能力を有する神経幹細胞は,パーキンソン病,ハンチントン病,脳虚血,脊髄損傷などの変性・損傷疾患モデルにおいて有効性が報告されている6,12,14,15).しかし,神経幹細胞は胎児脳あるいは成体であれば脳のsubventricular zoneという限定された場所が主たる供給源であるので,治療に用いるには細胞数の確保が困難であるという問題がある.さらに,神経幹細胞からの神経細胞の分化誘導においてはグリア細胞の分化が伴うので,効率的な制御が必要である.
骨髄間質細胞は骨髄の中に存在する間葉系細胞であり,造血系細胞とはまったく異なる.倫理的に問題なく容易に採取可能であり,培養下にて旺盛に増殖するので,患者本人の細胞を用いれば免疫拒絶のない自家移植系の確立が可能であるが,骨髄バンクも利用可能であるなどの多くの利点をもつ.この細胞は骨・軟骨・脂などに分化することが報告されており,分化転換能は注目されている16,17).われわれは倫理的問題のない効率的な再生医療の実現を目指して,骨髄間質細胞から目的とする特定の細胞に分化誘導する研究に着手した.発生分化を制御するNotch遺伝子を導入することで骨髄間質細胞が神経幹細胞様に分化転換し,さらに特定のサイトカイン刺激を加えることで極めて高い効率で機能的な神経細胞に誘導する方法を見い出した4).加えて軸索再生を引き出すことで知られている末梢性グリアのシュワン細胞も還元剤,レチノイン酸,Heregulin投与によって誘導可能である3).いずれも偶発的な脱分化に期待するものではなく,一定の推論に基づいて発生・分化にかかわる因子を順序だてて操作する方法である.これらの誘導した細胞を神経変性・損傷モデルに移植し,生体への生着と組織再構築を解析した.骨髄間質細胞の持つ臨床応用への可能性について考察する.
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