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Ⅰ.はじめに
ES(embryonic stem)細胞はin vitroでの病態解明や創薬の分野において有用であるが,細胞移植のドナーとしても期待されている.神経難病に対する細胞移植治療として,特にパーキンソン病に対する胎児細胞移植が行われてきた.パーキンソン病は黒質から線条体に投射するドーパミン産生ニューロンの脱落により無動,固縮や振戦が起こる病気である.1980年代以来,すでに数百例の胎児中脳黒質細胞移植が行われその有効性が報告されてきた.近年,二重盲検臨床治験の結果が報告され,少なくとも60歳以下の軽・中症例には効果があることが明らかとなった6,13).しかし,15%から約半数の症例で移植後にジスキネジアがみられ,これはL―ドーパの投与を中止しても治まらなかった(off-medication dyskinesia).この原因としては,細胞の量(多すぎた?)や質(ドーパミン産生ニューロン以外にGABA(gamma-aminobutyric acid)産生ニューロンやアセチルコリン産生ニューロンなどが多く含まれている?),不均一性(線状体の中でドーパミン濃度が不均一になった)などの問題が考えられているが,詳細は不明である.また胎児1体分と4体分の細胞移植の比較では,後者でしか優位な行動改善が得られなかった.このことは,移植を成功させるにはある程度の量を移植する必要があることを示している.これらの結果から,患者の選択も含めて胎児細胞移植の方法はまだまだ検討しなければならない点が多々あると考えられる.また,胎児細胞を移植に使うには供給面,倫理面の問題があり,この治療法は広く普及するには至っていない.そこで注目されているのが培養によって増やすことのできる幹細胞の利用である.幹細胞は自己増殖可能なので胎児細胞などと違って培養によって大量かつ比較的均一な細胞を得ることができ,凍結保存も可能である.そして,分化をコントロールすることができれば理論的にはその疾患に必要な神経細胞を大量に得ることができることになる.候補として考えられている幹細胞は,胎児や成体脳から分離した神経幹細胞,ES細胞,間葉系幹細胞などであるが,それぞれが長所短所を持っている.本稿では,高い増殖能と多分化能をもち,細胞移植のドナーとして潜在能力は高いが,初期胚由来であるという倫理的問題も指摘されているES細胞について述べる.基本戦略は,まずES細胞からニューロンやグリア細胞(特に対象疾患治療に必要な細胞)を誘導し,それを移植して脳内で機能させるということである(Fig. 1).
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