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Ⅰ.手術の背景
淡蒼球(GP:globus pallidus)は,大脳基底核の一番内側寄りに位置し,線条体からの出力線維のほとんどがここへ収斂する.一方,淡蒼球からの出力線維のうちで量的に最も多いのは,淡蒼球視床線維で,これはもっぱら淡蒼球内節(GPi: globus pallidus pars medialis)から起始して,レンズ核束(fasciculus lenticularis)やレンズ核ワナ(ansa lenticularis)を通り,視床の外側腹側核(VL: nucleus ventralis lateralis)に終止する.このような構造的特徴を通して,淡蒼球,なかでも内節は,いわゆる motor loop (大脳皮質運動関連領域‐線条体‐淡蒼球‐視床‐大脳皮質)のすべての情報が集中して通過する「かなめ」の位置を占めることになる.運動の調節に淡蒼球が果たす役割については,現在なお完全に解明されたとは言い難いが,少なくとも淡蒼球が視床と並んで運動調節に関する情報を処理するのに最も都合の良い場所に位置していることは間違いない.
過去,どの時代にも不随意運動の外科治療は,その時代の病態生理の理解と,同時代に利用可能であった技術の総合産物であった.そして,淡蒼球は上記構造的理由から常に不随意運動外科の対象として注目されてきた.1940年にMeyers7)は,脳炎後の振戦を示す患者に対して開頭術により脳室経由で尾状核頭と淡蒼球の破壊を試みて基底核外科の端緒を開いたが,その臨床効果はともかく,手術侵襲による死亡率が15.7%にも及び,実地臨床への応用は困難として中止せざるを得なかった.その後,より低侵襲で淡蒼球やレンズ核ワナを破壊して同様の効果を得る手段として,Fenelon2)は,小開頭,前頭葉経由にフリーハンドで凝固電極を挿入して淡蒼球とレンズ核ワナを破壊する手法を,またGuiot とBrion3)は,開頭により前頭葉下面から視索を目印に専用の器具を挿入して破壊巣を作成する方法を考案したが,いずれも正確さと安全性の点で後の定位脳手術に勝るものではなかった.
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