脳神経外科をとりまく医療・社会環境
脳神経外科領域における医療過誤―下級裁主要判例の検討
福永 篤志
1,3
,
古川 俊治
2,4
,
大平 貴之
1
,
須田 清
3
,
河瀬 斌
1
1慶應義塾大学医学部脳神経外科
2慶應義塾大学医学部外科
3大東文化大学法科大学院
4慶應義塾大学法科大学院
pp.85-94
発行日 2006年1月1日
Published Date 2006/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436100025
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Ⅰ.はじめに
医療過誤訴訟は年々増加傾向にあり,最高裁判所の調査によると,平成16年度の新規受件数は1,107件と,初めて1,000件を突破した.平成11年度が569件だったので,わずか5年間で倍増というハイペースである.
一方,ハインリッヒの法則という労働災害における法則によると,1件の死亡・重症事故に対して,通常の危機は300件存在することが知られている.これを医療過誤訴訟にあてはめると,年間1,000件以上の訴訟が発生しているのだから,年間30万件以上もの医療過誤訴訟になりうる通常の危機が発生していることになる.これは,現在日本全国に約25万人の医師が働いているので,まさに「医師1人に訴訟1件」の危険が毎年存在することを意味している6).
最高裁判所の調査では,平成16年度の医療過誤訴訟の新規受件数を診療科別にみると,内科,外科,整形・形成外科,産婦人科の順となっていて(Fig. 1),現在のところ,順位に目立った傾向はみられない.
医療過誤訴訟の増加は,脳神経外科もその例外ではない.アメリカでは,もはや保険会社に支払う年間保険料があまりにも高額すぎて,脳神経外科を廃業してしまった医師もいると聞く.
そこで,本研究では,平成元年度からの比較的新しい脳神経外科領域の医療過誤訴訟の実際の裁判例について調査し,その判決理由(判決の内容)について,争点や裁判所の判断などの奥深くにまで踏み込んで検討した.脳神経外科領域ではこのような報告はこれまでになく,今回の研究で新しい知見が得られたので報告する.
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