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—J.バビンスキ—器質性片麻痺とヒステリー性片麻痺の鑑別診断
萬年 甫
1
,
今村 正道
2
1東京医科歯科大学解剖学第3講座
2横浜市立大医学部精神医学教室
pp.662-663
発行日 1967年10月25日
Published Date 1967/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431906438
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はじめに
ここに訳出した論文は,今世紀初頭の1900年,バビンスキーがパリの「慈善病院」(Hôpital de la Pitié)で行なつた臨床講義の記録である。当時彼は42才,ちようど油ののりきつた時期の業績ということになる。彼の名を不朽にした「足指現象」***の記載はこれにさきだつ4年前の1896年,「中枢神経系のある種の器質的疾患における足蹠皮膚反応について」と題して発表されており,両者はほぼ同じ時期に世に問われたものといえる。
バビンスキーが神経学の門に入つたのは偶然のことだつたといわれている。彼は最初は病理解剖学者として出発し,ヴュルピアンのもとで「多発性硬化症の解剖臨床的研究」と題する学位論文を1885年に発表している。そのころ,シャルコーのところで外来医長の席があき,ジョッフロアが彼を推薦したのが機縁となつて,神経学への道を歩むことになつたのである。1890年彼はフランスの臨床医としてはもつとも格の高い「パリ病院医師」の資格を得たが,その2年後の教授資格者試験には失敗した。これは後世をして「遺憾とすべき術策の犠牲者」といわしめ,どこの国にもあるような地位をめぐる確執のあることを示している。逆にいえばバビンスキーはそうしたことにたけていなかつたといえよう。このことは大学教授への道が封ぜられたことを意味したのであるが,彼個人にとつてはむしろ幸いであつた。
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