Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
I.はじめに
スクレイピーはヒツジおよびヤギを自然宿主とした疾病であり,自然感染の場合,2年半〜4年半ほどの潜伏期の後に発症する。古くは,200年以上昔から西ヨーロッパにおいてヒツジの深刻な病気として知られていた1)。家族性に発生がみられることから遺伝性の疾病とも考えられたが,CuilleおよびChelle(1936)は病気のヒツジ脳および脊髄を健康なヒツジに接種して,この病気が伝達可能なこと,病原体はウイルスのようにグラッドコール膜を通過することを示した2)。Gordon,Brownlee,およびWilson(1939)はヒツジ脳で作成された,1935年のLouping Illのホルマリソ不活化ワクチン1800ドーズを接種されたヒツジの7%にスクレイピーが発生したことを観察した3)。このワクチン接種事故により,CuilleおよびChelléの成績が確認されたと同時に,通常のウイルスが不活化されるホルマリソ(0.35%,3か月)に抵抗性を持った,異常な病原体によって発症する疾病であることが明らかとなった。
ヒトの疾病であるCreutzfeldt-Jakob病と異なり,スクレイピーは自然宿主を用いた動物実験が可能であり,初期(1936〜1950年代)の研究はもっぱらヒツジを用いて行なわれた。Gordon(1946,1957)は脳乳剤を希釈して皮下接種することにより,おおまかな感染価の測定が可能なことを示した4,5)。また彼の実験から脳内接種をすると潜伏期が短くなることが示唆された。しかし接種したヒツジを4年以上観察する必要があり,後半の2年に発症がみられること,さらに対照のヒツジの1/5には自然のスクレイピーが発生することもあり,さらに高力価の脳乳剤を接種しても,時には1/3しか発症しない場合があるなど,遺伝的に感受性の低いものが存在することなど,実験に伴う困難さも明らかになった。Wilsonは脳内接種を検討し,皮下接種に比べて30〜40%短期間で発症するため,仔ヒッジに脳内接種すると自然感染のスクレイピーにある程度わずらわされずに実験ができることを示した6)。しかし自然感染スクレイピー病原体の影響が完全には無視できなかった。
Scrapie is a naturally occurring fatal, subacute and progressive encephalopathy in sheep and goats, and has been known over 200 years ago in Western Europe as serious problems among sheep owners.
The disease is able to be transmitted experimentally not only to natural hosts, but also to various animals including rodentia, canivora and primates. Mouse and hamster are most widely used as experimental animals. Histological lesions, mainly consitsing of vacuolation of nerve cells without any inflammatory reaction, locate only in central nervous system, and closely resemble in any different species of affected animals.
Copyright © 1987, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.