特集 神経学における最近の研究
<病理>
ニューロピルの病理について
藤澤 浩四郎
1
1東京都神経科学総合研究所神経病理学研究室
pp.773-774
発行日 1978年7月10日
Published Date 1978/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431904927
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ニューロピルとは中枢神経系灰白質中での細胞間質,すなわち細胞体,血管,有髄線維などを除外した光顕的に無構造に見える部分を指す言葉であって,そこには神経細胞・グリア細胞の夥しい突起群が密に錯綜して絡み合い一種の織物構造ができている場所である。この構造は電子顕微鏡の出現により初めて私どもの眼前に啓示された世界である。そして樹状突起と軸索突起終末との間にはシナプスと現在総称されている各種の接合構造が存在することが知られた。このシナプスこそ神経系の機能を支える基礎的構造であるからニューロピルの構造の解明が神経解剖学,神経生理学に与えた影響は多大なものであった。現在の神経科学の進歩はこのニューロピルの知識なくしては理解できない。だがその中で神経病理学はこのニューロピル発見の恩恵に浴することのこれまでに最も少なかった分野であったと思われる。私が考えるにこれには二つの事情があった。その一つは電子顕微鏡的方法をヒトの剖検脳に応用することが技術的に難しいからであり,他はヒトに見られる神経疾患を動物実験モデルに再現することの困難さにある。
このことをもう少し説明してみよう。個体が死ぬと組織は直ちに死後変化を起し始めるが,神経系は特にその変化の進み方が速い。死後どんなに速くても一時間以上経過して解剖台上に載せられる屍体の脳はすでに変化の途上にあり,しかもニューロピルは早期に壊れやすい部分である。
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