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"痛覚"の解剖学というものは元来存在しない。ここでは線維結合のなかから,痛覚に関係がありそうなものを選んで考察してみた。しかし,この方面には多くの文献があるので,痛覚やいたみという立場からみて取捨選択が適当であつたかどうか,批判が多いことと思う。重要な文献の見落しもあるに違いない。それに,痛覚やいたみを正面からとりあげることができるのはヒトについてだけである。定位脳手術の進歩によつて,ヒトでも具体的な所見が得られるようになつたが,これを形態学と結びつけようとすると,どこかに空隙がある。動物,ことにネコなどについての体性感覚の生理学の進歩はめざましい。感覚内容と結びつけて考えることもできるようになつてきた。しかし,侵害刺激による所見を痛覚やいたみの解析にすぐそのまま応用できるかどうか,ここにも問題があるかもしれない。しかも,ネコの脊髄からの上行路は形態学的にみるとサルやヒトと違つたところがある。さらに,痛覚やいたみと関係がありそうな線維結合にも,意見の不一致がある。それで,すこぶる要領をえない綜説になつたが,重要であると考えられることを要約しておく。
(1)脊髄からの長上行路を2群にわけて考察するのが正しいと思う。生理学的研究ではこれについての配慮が十分でないものが多い。形態学的立場からみると,この点にものたりなさを感ずる。
② ヒトの脊髄からの長上行路は外側と前脊髄視床路にわかれる。両者とも完全に,またはほぼ完全に交叉性である。前者は後縁細胞からでるという。外側脊髄視床路は温痛覚を伝えるといわれている。
(3)サルでもヒトとほぼ同じように2群にわかれている。ただし,網様体を通る経路は視床に直接終らないという人がいる。
(4)ネコの脊髄からの長上行路も脊髄・網様体・(視床)路と頸髄・視床路にわかれる。前者の経過は前脊髄視床路,後者のは外側脊髄視床路に似ている。しかし,後者の起始は特異的であつて,C1とC2にある外側頸核からでる。外側頸核には脊髄の灰白質からでて後脊髄小脳路の位置を上行する線維が終る。この終止には体部位局在がないという報告もある。検討を要する。外側頸核への線維の起始細胞については見解がわかれている。外側頸核の有無や発達度を系統発生的に説明できない。頸髄・視床路が軽い機械的刺激に応ずるという研究はあるが侵害刺激との関係は確認されていないようである。
脊髄・網様体・(視床)路については,視床まで上行するという人と網様体内で終つてしまうという人があつて,意見がわかれている。
(5)前脊髄視床路は原始的触圧覚を伝えるという。しかし,本路やこれに相当すると思われる脊髄・網様体・(視床)路,さらに網様体から出て視床に終る網様体・視床路などが,痛覚やいたみとまつたく関係がないと断言できるかどうか,検討の余地があると思う。
(6)脊髄からの線維の視床における終止部位としては特殊投射核,PO核群,および内側髄板を中心とする核域の三つをあげることができる。
(7)特殊投射核には外側脊髄視床路(ヒト,サル),または頸髄・視床路(ネコ)が終る。しかし,前脊髄視床路の終止を主張している人もある。特殊投射核への投射は種(modality)と部位(Place)について特異的であるという。
ヒトでこの核を刺激するといたみを感じ,破壊すると痛覚の減弱が起こるという。この現象には体部位局在が認められている。
しかし,ネコのVPでは侵害刺激に応ずる細胞が確認されていないようである。
(8)PO核群に終る線維も頸髄・視床路か外側脊髄視床路からくるという人がいる。侵害刺激に応ずる細胞が多い。種および部位について非特異的であるという。
(9)内側髄板を中心とする核域のどの核に脊髄からの上行路が終るかについて意見に不一致がある。また,ここに終る線維の経過についても見解がわかれている。外側脊髄視床路(ヒト,サル),または頸髄・視床路(ネコ)をあげるものと脊髄・網様体・(視床)路をあげるものがある。
(10)以上のほか,SIIを中心として若干の批判をくわえ,三叉神経の二次経路についてもふれた。
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