Japanese
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特集 神経疾患と脂質代謝
低栄養状態における脳脂質
Brain lipids in undernutritional states
辻村 良太郎
1
Ryotaro TSUJIMURA
1
1三重大学医学部精神科教室
1Department of Psychiatry, Mie University School of Medicine
pp.596-606
発行日 1973年6月3日
Published Date 1973/6/3
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431903524
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I.はじめに
脳の発育障害を考える時,種々の要因を考慮しなければならないが,最も重要なことは脳発育障害となる侵襲が発育段階のどの時期に加えられたかという侵襲の時期の問題である。動物には"brain growth spurt"1)として知られている脳発育の時期があり,この時期は他のどの時期よりも侵襲に対して傷つきやすく侵襲が非常に軽度なものであっても恒久的な欠損を脳に残すことが知られている。この"vulnerable period"1)は実験奇形学で問題とされるグロテスクな身体の奇形や臓器の形成不全を誘発しやすい時期"teratological period"とは全く別のものである。この"vulnerable period"は多くの重要な発育過程—グリア細胞の増殖と移動,ミエリン形成,酵素系の発達,炭水化物代謝の変化,水分および電解質濃度の変化—が急速に進行し脳重量が急激に増加する時期である。この時期は動物種によりかなり異なり,モルモットでは出生前20日頃にあり,ブタおよびイヌは出生前後,ヒトは出生前3か月から生後1年までの時期にあり,ラットは生後10日頃に認められる(図1)1)。さらに重要なことは同一動物種,同一脳においても部位により,細胞種によって発育段階が異なることである2)。したがって脳発育障害に関係ある研究を行なうときには,この動物種による差異と脳の部位による差異を充分に考慮しないと結果の解釈に誤まりをきたす。
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