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I.血液脳関門とは何か?
血液脳関門とは,循環血液と脳実質との間に存在する,物質の移行の制限を表す概念であり,広義には次の三つの現象が含まれている。(1)血液中の極性物質の脳実質への拡散は非常に大きな制限を受けている。その結果として脳内の細胞間液の組成が一定に保たれており,複雑に結合しあい精妙な統合を受けている脳内の神経回路が正常に機能することができる。狭義には血液脳関門という場合,この現象を指していることが多い。(2)脳実質内の細胞の生存維持・機能発現に必要な物質は選択的に血液から脳実質内へと取り込まれ,不要,有害な物質は選択的に脳実質から血液に排出される(詳しくは後述IVを参照されたい)。(3)血液と脳実質との境界にある脳内毛細血管内皮細胞で,血液中のあるいは脳実質中の物質の一部分は代謝され両者の間での移行が大きく制限されている。この代表的なものとしてはL-DOPA (ジヒドロキシフェニルアラニン)がある。血液中のL-DOPAは,後述する内皮細胞管腔側にある中性アミノ酸輸送系によって内皮細胞内に取り込まれる1)が,そこに存在する芳香族-L-アミノ酸デカルボキシラーゼによって細胞膜を通過しにくいドパミンに代謝され2-5),その脳内移行は制限される。内皮細胞内にはモノアミンオキシダーゼも存在するので,ドパミンはさらに酸化,不活化される4-6)。逆に神経細胞の活動によって脳内細胞外液中に放出されたドパミンが内皮細胞に取り込まれ,これらの酵素によって不活化される可能性もある。
血液脳関門は脳のすべての領域に存在するわけではない。脳室周囲器官(circumventricular organs)と呼ばれる領域(中央隆起,脳下垂体,脈絡叢,松果体,大脳終板,最後野など)では血液と脳実質の間で自由に物質交換が行われる。これらの領域では神経細胞が血液に直接曝されるのが生理的に重要な意味を持っているのである。たとえばある特定の神経細胞から分泌された神経内分泌ホルモンが血流に乗って遠隔の標的器官に作用するためには血液脳関門(以下BBB)が邪魔になるのである。またこれらの神経細胞は血液中の特定のホルモン含量を感知し,神経内分泌ホルモンの分泌量を変えることにより,血液中のそのホルモン含量を調節するのであるが,その際にもBBBが邪魔になるのである。この領域と他の領域および脳脊髄液との問にはまた別の障壁が存在し,血液脳脊髄液関門(Blood-CSF Barrier)と呼ばれている(詳しくは総説7)を参照されたい)。
The blood-brain barrier maintains the microenvironment of the brain, which is crucial for neural function. The barrier resides in the specially differentiated cerebral capillary endothelial cells.
The characteristic features of the cerebral capillary endothelial cells include:(1) the complex tight junctions between cells which provide a high electrical resistance and allow little paracellular transport, (2) paucity of micropinocytotic vesicles which are considered to be the vehicles for transcellular trans-port,(3) abundance of mitochondria, reflecting the high activity of active transport systems,(4) pre-sence of specific transport systems for ions, hexoses, monocarboxylic acids, amino acids, amines, nucleo-sides and purine bases,(5) presence of several specific “marker” enzymes, such as Na+, K+-ATPase, alkaline phosphatase, butyrylcholine esterase, aromatic-L-amino acid decarboxylase,(6) expression of several specific surface proteins, including HT7, neurothelin, and E-cadherin,(7) expression of P-glyco-protein, a transmembrane glycoprotein that actively exports lipophilic molecules out of cells, and (8) almost complete ensheathment by the foot processes of astrocytes.
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