Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
筆者は,様々な形態学的方法を用いて,アストロサイトの形態を解析してきたが,その目的は次のような疑問から出発したのであった。すなわち,「脳も,肝臓や腎臓などの他組織と同様に,種類の異なった複数の細胞から作られており,ニューロン,グリア細胞(アストロサイト,オリゴデンドロサイト,ミクログリア),および血管系細胞がその構成メンバーである。それぞれの組織において,種類の異なる細胞は,ある一定の配列関係をもって構築されているが,いったい,脳ではどのような配列関係になっているのであろうか」という疑問であった。そこでまず,無尾両生類におけるアストロサイトの形態を解析した結果,「ニューロンとアストロサイトの位置関係は,感覚上皮における感覚細胞と支持細胞との位置関係に等価である」という結論に達した1,2)(図1A)。感覚上皮では,上皮下の基底膜に,支持細胞が半デスモソームや接着斑といった接着構造で接着しており,感覚細胞はこの基底膜から隔てられて存在している。脳では,この基底膜に相当するものが脳表面を包む軟膜下基底膜であり,ここにアストロサイトの突起は斑状でなく連続した接着構造をもって接着している。ただし,感覚上皮とは異なり,脳内には血管が分布し,血管壁をとりまく基底膜がある。この血管周囲基底膜に対して,アストロサイトは接着構造をもたずに,単に並置(juxtapogition)という形で接触している(図1B)。軟膜下基底膜と血管周囲基底膜に対して,アストロサイトは明らかに接触様式を異にしているのである。次に,両棲類で得られた,このようなニューロン,アストロサイト,基底膜間の位置関係は,哺乳類の脳においても原則的にあてはまるのではないかという前提に立って,哺乳類アストロサイトの形態を解析し続けて現在に至っている。しかし,哺乳類での解析を困難にしている点がいくつかある。まず,脳内の血管についてである。哺乳類脳では,脳内血管は動脈,毛細血管,静脈に分れており,動脈が脳に侵入し毛細血管になり,次に静脈となって脳を離れる。血管壁をとりまく基底膜をみると,軟膜下基底膜は動脈の侵入とともに脳に入り,おそらくこの基底膜は動脈が毛細血管に移行するあたりで,毛細血管内皮細胞を包む基底膜に連続する(図2)。そして内皮細胞基底膜は,静脈と併行する軟膜下基底膜に移行する。したがって,脳内血管の基底膜は,軟膜下基底膜と相同な,動脈あるいは静脈に併行する基底膜の部分と,毛細血管内皮細胞基底膜部分とに分けて考えられる。後者の毛細血管内皮細胞基底膜部分が,両棲類での血管周囲基底膜に対応しているのであろう。電子顕微鏡所見では,軟膜下基底膜と相同な基底膜と接するアストロサイトには接着構造が観察されるけれども,毛細血管内皮細胞基底膜と接するアストロサイトには接着構造は通常ほとんど観察されない。第二の難点は,アストロサイトが比較的小型の細胞であるために,その突起をも含めた光学顕微鏡像を得ることが難しいことである。アストロサイトの染色にはこれまで,グリア染色法,Golgi法,免疫組織化学法,および細胞内色素注入法が用いられてきた。しかし,これらの染色法では,グリア細胞のなかからアストロサイトだけを選択的に,突起の細部に至るまで,しかも効率よく染め出すことは難しい。筆者の経験では,灰白質に分布する形質性アストロサイトの染色がとくに難しいようにみえる。
Morphological features of astrocytes in the adult mammalian central nervous tissue were described and discussed in terms of (1) their classification, (2) their distribution pattern, (3) correlationship between the glia-and the vasculoarchitecture, (4) their light microscopic images, and (5) three-dimensional reconstruction of their vascular endfeet. Finally, our recent experiment on the differentiation of plasma membrane structure in cultured astrocytes was presented.
Copyright © 1993, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.